明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常

元大学教員が綴るこれまでの経過と現在 。なお、入院と本格治療の経験については、00から34あたりまでをお読みください。 。

明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常02 入院と治療開始

そんなわけで、思いがけず、突然長期入院生活に入った私ですが、入院してから一週間は、変な話、かなり忙しくて、ゆっくりと静養という雰囲気には遠かったのです。それは、治療が始まったことに加え、これまでの仕事関連についての整理が必要だったからです。

 

本日は、このうち、治療に関して記していきます。以下、箇条書きにしていきましょう。

① 腎臓機能について

告知を受け、入院したその夜、早速始まったのが、腎臓機能を回復するための処置でした。最初の血液検査ですぐにわかったのですが、当初、腎機能は通常の30%程度にまで低下していました。これは、この病気に起因するものであると同時に、痛み止めのために飲み続けていた薬の副作用が極端に出てしまった、ということだったようです。腎機能が低下すると、疲れやすくなるだけでなく、身体全体の回復機能が落ちてしまい、この後の治療に支障を来します。

といっても、主に行われたことは生理食塩水の大量点滴。そんなに大した治療ではありません。ただ、点滴初心者の私にとって、長時間続くそれは、これから始まる長期治療・療養生活を暗示しているかのようで、気持ちはかなり落ち込みました。ただ、幸いなことに、腎機能は一週間後には、70%にまで回復し、その後も順調に推移してくれました。やれやれ、といったところでしょうか。

② 緩和ケア

あらゆる病人にとって、もっとも嫌なのは、痛みが長期にわたって続いていくことです。私の痛みはまだ、どうしても耐えられないほどではありませんでしたが、院内の緩和ケア・チームが即座に派遣されてきました。ちなみに、緩和ケア・チームとは、最近あちこちの病院で増えてきた「緩和ケア病棟」とは全く異なるものです。あれは、高齢になって画期的・積極的な治療を施すことが困難になった方たちのための「終末医療」に類するものですが、「チーム」は、少人数(医師、看護師、技師)でさまざまな診療科を横断的、機動的に巡回して、本格的な治療をしやすいように環境を整える専門家集団です。

私の場合、事前に「場合によってはモルヒネを使うことになるかもしれない」と言われていたのですが、彼らの腕が良かったのか、2~3日で痛みは嘘のように消えて、普通にまっすぐ歩いたり、座ったりすることができるようになりました。経験ある方ならわかるでしょうが、この解放感は、暗い道に光が差したかのような気持ちになれるものです。がん治療という観点からすると、まだほとんど何も前進してはいないんですけどね。

➂ 放射線治療

前回も書きましたように、腰の部分に結構な大きさの腫瘍ができていましたので、これは除去しなくてはなりません。そのために有効なのが放射線治療。と言っても、患者側は何をするわけでもありません。ただ、台の上に寝かされて、しばらくの間じっといるだけです。1回の時間はせいぜい5分少しだったと思いますが、これは約1か月、20回ほど続きました。人間が1か月に浴びても問題のない放射線量の上限は決まっていますので、そのあたりは、かなり計算されていたのだろうと思います。

治療を受けた後は、毎回少しふらつき等の症状が出ますので、座って休憩する必要があります。そのため、通院してこれを受ける患者のために休憩スペースが広く取られているのですが、私はさっさと病室に戻り、そこで寝ころんでいました。目を閉じて、じっとしているうちに少しうたた寝し、起きた時には爽快な気分になっていました。

ただ、機械の上でじっといる間、時折ですが、ふと涙が溢れてくるのを止めることはできませんでした。

ちなみに、この機械、一台購入するのに億単位のお金が必要だそうで、私の見る限り、病院内のどの設備よりも大切に扱われているようでした。

④ 骨の強化

多発性骨髄腫の症状のひとつとして、骨の強度をかなり弱め、場合によっては溶かしてしまう、という恐ろしいものがあります。私の場合、骨盤にきれい?に丸い穴が開いてしまっていました。それ自体は外的治療ではなく、自然治癒によって直していくしかないのですが、そのためには骨を少しでも強化する必要があります。そうしないと、その後、骨折しやすい、車いす生活になるなどの問題が残るからです。

ここで使われるのは、骨粗しょう症の患者さんにもよく使われる薬と同じものでした。私が処方されたのは1週間に1回服用するだけでよかったのですが、服用は起床後すぐで、その後最低30分は水以外のものは口に含むことができず、寝転んでもいけない、というものでした。これは、前の晩から少し緊張する、ちょっとしたイベントでしたね。その後、薬の種類は変わりましたが、骨の強化というのは、この病気の罹患者にとってずっと続く課題になるのです。

⑤ 化学療法

ここで、やっと中心となる治療の登場です。血液系のがんの場合、手術はありませんので、化学療法がメインになります。つまり、各種の薬品(主に抗がん剤)を、注射、点滴、錠剤やカプセルの服用を組み合わせて、骨髄腫の広がりを防ぐことになります。何をどのように組み合わせて、どのぐらいの量入れていくのかは、主治医の判断によるので、一概には言えませんが、1週間に1日程度の休憩(様子見)をはさみながら、何クールか、これをくりかえしていくことになります。それで、ある程度の効果が認められたなら、いよいよ次の段階に入っていきます。私の場合、2か月ほどかかりました。

ちなみに、この検査は、背中(腰の近く)から直接骨髄を採取して検査する、というもので、局所麻酔をしたうえで行われる、かなり大掛かりなものでした。患者自身は、うつぶせになていて、何が起きているのかのかよくわからないし、麻酔も効いているので、さほど辛さは感じませんが、もし第三者が見ていたら、「大変だなあ」と思うことは間違いありません。

そんなわけで、この初期段階でもずいぶん色々な治療が行われることになりました。ほとんどの治療は医師の判断と指示通りに行われるものですが、実感として、緩和ケア・チームの存在は大変大きかったように思います。これから何かの病気で入院される方は、病院を選ぶ余裕があるならば、こうした体制がきちんとできている病院を選ぶことを強くお勧めします。

それから、化学療法で使われる薬は、いずれもかなり強力なモノなので、ある程度の副作用を伴うことは珍しくありません。よく話題になるのが抜け毛問題ですが、体内のことを考えると、むしろ、発疹、手足のしびれ、食欲不振等のほうが、放置できない大きな問題です。少しでも気になったら、医師や看護師にきちんと伝えるようにしましょう、

もう一点、ここまで治療が進むと、とりあえずの不安や苦痛はほとんど取り除かれてしまいますので、日常生活も問題ないのではないか、と錯覚してしまい、退院を希望する方さえもいらっしゃるようです。

しかし、化学療法は白血球や赤血球、血小板等の値をかなり低下させてしまいます。具体的には、免疫力の低下や血が止まりにくくなるといったリスクはかなり大きくなります。ですから、自分の感覚として「良くなってきた」と思えても、それは表面上のことに過ぎず、決して安心できるレベルではない、ということを肝に銘じておく必要があるのです。

 

次回は、入院時の治療以外の面、とくにこれまでの仕事の処理との関連を中心に紹介していきます。