明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常

元大学教員が綴るこれまでの経過と現在 。なお、入院と本格治療の経験については、00から34あたりまでをお読みください。 。

明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常36-2 悪魔の薬?

こんにちは。

(この記事は、後日見直した時に、敏夫氏番号に重複があることに気づいたため、少し変則的な番号に修正しています。)

投稿の間隔が随分空いてしまいました。その間に、町はすっかり秋めいて、夕方ともなると虫の大合唱が聴こえるようになりましたね。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。

コロナのワクチン接種も、ようやく2回接種者が国民全体の5割に届きそう、とのことですね。詳しくデータを見ていると、65歳以上の高齢者に関しては、既に約9割となっていますが、この数字はここ1週間ほどほとんど動いていません。残り10%の方は、健康上や宗教上等の理由で注射を打てない方、そしてもともとワクチンに疑念をもっておられて、積極的に「打たない」という選択をしている方ということになるのでしょうか。いずれにせよ、このあたりの数字が日本におけるひとつの限界なのかもしれませんね。他の世代でも、今後接種がもっと進んだ場合に、このあたりの数字でとまるのかどうかが注目されるところです。

 

今日の話題は、このことと少しだけ関係があります。

最近、図書業界で少しばかり話題になっている本があります。それは栢森良二氏が上梓した『サリドマイド:復活した「悪魔の薬」』(株式会社PHPエディターズ・グループ刊)という本です。1960年代、大衆薬(主として睡眠導入剤)に含まれていたサリドマイドを服用した妊婦から手足が欠損した子どもが生まれるという「サリドマイド薬禍」に関するノンフイクションで、その後、日本で初めてとなる本格的な薬害訴訟が大きな社会問題としてクローズアップされたこともあり、今の50歳代より上の方なら、おそらく名前ぐらいは聴いたことがあるのではないでしょうか。

私が以前服用していたレブラミドという薬は、まさにこのサリドマイドを含んだものであることは、しばらく前の投稿でご紹介した通りです。2005年にこの薬が認可され、広く使用され始めたのは、私が罹患している多発性骨髄腫をはじめ、いくつかのがんの治療薬として効果が大きいとされたもので、まさに「復活した薬」となるわけです。現在、日本中でどのぐらいの患者がこれを服用しているのかは、詳細なデータがみつからなかったので、はっきりしませんが、多発性骨髄腫の患者数そのものが他のがん罹患者数と比べてかなり少ないにもかかわらず、その売上はかなり伸びているようで、効果的な薬であるという評価はすでに定まったものと言えるでしょう。少なくとも私の場合は、4年以上この薬のお世話になり、その間、体調はほぼ安定していましたので、まあ「福音の薬」といっても過言ではありません。過去のことがありますので、厚生労働省はレブラミドの管理を厳格に行うように病院を指導しており、院内処方しか認められていない上に、患者がきちんと服用・管理しているのかを定期的にチェックすることも求めています。まあ、現場の医師からは「そこまでうるさいことを言わなくても・・」という声も一部聞かれるようですが、そうすることによって、薬を服用することの意味と問題を患者がきちんと考える契機になれば良いのではないか、と考えます。

しかし他方で、この本のタイトルにあるような「悪魔の薬」というレッテルの貼り方には疑問を感じます。「悪魔」がいたとすれば、それはサリドマイドという薬そのものにではなく、それを開発し、治験を行う中で、危険性を見抜けなかった研究者あるいは製薬会社ということになるのではないでしょうか。あらかじめ危険性が周知され、それを踏まえたうえで適切な服用方法が見出されていれば、そこまで多くの犠牲者を出すことはなかったように思えるのです。

さて、ではなぜこの本が今話題になっているのでしょうか。それは、コロナのワクチン開発をめぐるさまざまな疑念と重なり合うところがあるからです。よく知られているように、コロナのワクチンについては、通常の薬品研究開発と比べて、とてつもなく速いスピードで行われ、治験もいくつかのプロセスを省略したようです。厚生労働省側も、緊急性が高いという理由で、通常よりも相当速い審査・承認を行いました。こうした特急列車のようなプロセスは、おそらく今後出てくる治療薬でも適用されるでしょう。

こうした動き、社会的な要請の高さを的確に捉えたビジネス戦略であるという意味で、製薬会社の姿勢は正しいと思います。ただ、急ぐあまり見落としてしまったこと、抜け落ちてしまったことがないのか、どうしても若干の疑念は残りますよね。すでに製造工場でのミスと思われる異物混入等は明らかにされていますが、もっと根本的な問題が今後出てこないとは限りません。厄介なことに、薬害というのはすぐに表面化するものではなく、5年後、10年後に出てくることも珍しくありません。そしてその因果関係を立証することは、大変難しいのです。

ワクチンをめぐっては、今のところ医学的見地からは、非常に優れたものである、という評価が定着しつつあるようです。しかし他方で、フェイク・ニュースも含めると、相当の否定的な意見も出されています。それらにいちいち振り回されるのはよくありませんが、他方で、私たちが接する薬品にはさまざまな危険性も含まれている可能性がある、ということは常に認識しておかねばならない、と思います。そして、ワクチン接種を推し進める政府・行政にもそういった意識を持ち、あるいは国民にきちんと知らせていくべきだと思うのです。

あらゆる薬品は、毒にも薬にもなりえます。それを踏まえて利用していくことができるような仕組みを、政府・行政・製薬会社が協力して構築していくことが、私たちの健康に良い影響をもたらすばかりでなく、日本の医療費を適切に圧縮していくことにもつながるはずだと考えています。

これは、現在もいろいろ合わせると10種類近くの薬を服用したり注射したりしている立場として、強く思うところなのです。