明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常

元大学教員が綴るこれまでの経過と現在 。なお、入院と本格治療の経験については、00から34あたりまでをお読みください。 。

明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常80 医薬分離って面倒だ?

こんにちは。

 

相変わらずオミクロン株が猛烈な勢いで拡大しているようですが、例えば第5波の時と比べると、社会全体の危機感は薄いような気がします。感染拡大のわりには重症者数の増え方が鈍いからでしょうか? そろそろ経口薬が使えるようになりそうだからでしょうか? それとも単純に、「コロナ疲れ」が進んでしまったからでしょうか?

まあ、これらすべての要素が絡み合っているのでしょうが、私は、今後の収束を見据えた時、もっとも重要なのは治療薬の普及であることは間違いないと思っています。

そんなわけで、今回は、病気や怪我に悩まされた時、必ずお世話になる薬にまつわる話を少し書きます。(コロナの話ではありません。)

 

以前も書きましたが、私はレブラミドという特殊な薬を服用していたときは、これが院内処方しか許されていないため、他の薬も一緒に病院の薬局で出してもらっていました。しかし、通常医師が処方する薬は、その医療機関ではなく、院外の調剤薬局で入手する決まりになっています。(院外処方・・現在は私もそうです。)いわゆる医薬分離という制度ですね。

この考え方や制度は意外なほど古くからあり、歴史を遡ると、ローマ帝国のフリードリヒ2世の名前が出てきますから、13世紀頃のことでしょうか。ただし当時は、国王などの権力者が、陰謀に加担する医師によって毒殺されることを恐れて、このような制度を導入したということなので、現在とは事情が全く異なります。

日本での導入は、GHQの指示を受けて1951年にいわゆる「医薬分業法」という法律が施行されてからですので、これも決して最近の話ではありません。その後、医療の高度や専門化、細分化が進むにつれて、現在のような形に定着したのです。ただ、医師に薬を処方してもらうという経験のない方にとっては、よくわからない制度ですし、今でも時々、病院内の薬局で「???」と迷っておられる方は時々見かけます。

では、現代医療の世界でなぜこれが有効と考えられているのでしょうか。厚生労働省等の説明を要約すると、以下の3点のメリットがある、ということのようです。

(1)より質の高い医療サービスの提供

(2)高齢化社会に向けてより安全な薬の利用

(3)医療費の適正化

 簡単に言ってしまえば、医・薬それぞれの専門性をもっと活かせるようにして、安全で安定的な薬の供給を行うとともに、医師が独断で必要以上の薬を患者に渡して「薬漬け」にしたり、国全体の医療費が高額になってしまったりすることを防ぐ、ということになります。

費用に関して言えば、日本全体で薬剤費は9.46兆円となっており、国民医療費43.07兆円に占める薬剤費の比率(薬剤費比率)は22.0%だそうですから、たしかに決して小さな数字ではありませんね。(2017年度のデータ。この数字は2000年代に入ってからあまり変化していないようです。)

しかし、デメリットがないわけではありません。まず、患者が医療機関調剤薬局の2カ所へ足を運ぶ必要があります。たいていの大きな病院の近隣には薬局がいくつかあり、そこに行けば、ほしい薬が手に入らないということはないはずです。しかし、例えば交通量の多い道路を渡らなければならないとか、やっと薬局に辿りついても30分から1時間近くも待たされる、ということもよくあります。当たり前のことですが、薬を欲しい人は病気や怪我を負っているわけですから、これは、相当な肉体的精神的負担になります。また、小さな医院(町医者)の場合は、近くに薬局があるとは限りません。ドラッグストア等でも「処方せん受付」という看板をよく見かけますが、こういったところでは品揃えがイマイチであることが珍しくないのです。

もう一点、大きな問題として、患者一人当たりの医療費が増えることがある、という点が指摘されます。院外処方になると、処方せん料や特定疾患処方管理加算などの医療機関への支払いに加えて、調剤基本料や薬剤服用歴管理指導料、薬剤料などの調剤薬局での支払いが発生します。つまり、両方に対して管理費用等に当たる分を患者が支払わなければならなくなるのです。気がついていない人も多いですが、国の医療費負担は減っているかもしれないけれど、個人の財布の負担が増えているとしたら、なんだか割り切れない気持ちになりますよね。

今のところ、医薬分離の仕組みを大きく変更するような議論や動向はほとんど見られません。医療がますます高度化し、新薬も次々に開発される状況下では、むしろその今の制度の安定化の方が重要ということでしょう。

ただ、患者側も「面倒だ」「カネがかかる」と文句を言うだけではなく、自分でできることも考えるべきだろうと思います。処方せん薬局というと、医師が発行した処方せんに基づいて薬を用意するだけだから、どこでも同じだと思う人が多いようですが、実際には必ずしもそんなことはありません。医療機関側と密に連絡を取り合って、処方せんの適正性をきちんと判断しているところや、薬を受け取りに来た患者に色々と話を聞いて、実際の服用量や時期についてアドバイスをするところなど、まさに専門性に基づいて医療の大変重要な部分を担っているという強い自負をもっている薬局はあるのです。私も、ある日自宅でくつろいでいたら、薬局から「その後お変わりありませんか」と電話がかかってきたことがあり、その丁寧な対応に驚いたことがあります。薬局も、求められる役割が高度・専門化するにしたがって、差別化を意識する時代になってきているということでしょうか。

薬局がどのような姿勢で仕事に臨んでいるのかは、その外観からはわかりませんし、普通は、途中で薬局を変えるということはほとんどないかもしれません。ただ、「薬局にもいろいろなところがある」という認識は持っておいて損はないだろうと思うのです。「薬局を選ぶ」のも自分の健康を考えるうえで大事になってくるのかもしれません。

 

今回も、最後まで読んでくださり、ありがとうございました。