明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常

元大学教員が綴るこれまでの経過と現在 。なお、入院と本格治療の経験については、00から34あたりまでをお読みください。 。

明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常82 坂本龍一さんのこと

こんにちは。

先日のニュースで、病気療養中のミュージシャン、坂本龍一さんが、自身音楽監督を務める「東北ユースオーケストラ」の3月公演に出演することが報じられました。このオーケストラは、東日本大震災の被災地の小学生から大学生が参加しており、あれから11年が経過したのを機に、約3年ぶりに演奏会を行うことになったそうで、坂本さんもステージに登場し、ピアノを演奏する予定、とのことです。

坂本さん、2014年に中咽頭がんを患い、その後復帰したのですが、2020年に今度は直腸がんが見つかり、治療に専念していたそうです。最初にがんが見つかった時は、ちょうど私が罹患して間もない時期だったので、罹患部位は異なるものの、その後の回復具合はずっと気になっていました。そういうわけなので、今回のステージ復帰は大変うれしい知らせです。ただし、まだ療養は継続中だそうですので、これで完全復活、というわけにはいかにようです。くれぐれも、無理はされないことを祈ります。

坂本龍一さんと言えば、私と同世代の方にとってはやはりYMOでの華々しい活動や映画「戦場のメリー・クリスマス」への出演などがすぐに思い出されるでしょう。

私自身、YMOに最初から興味があったわけではないのですが、1979年に行われたワールド・ツアーでのドイツやアメリカでのライヴの様子をたまたまラジオで聴いて、大変衝撃を受けたことをよく覚えています。当時のYMOは、テクノ・ミュージックの元祖のように位置付けられていて、無機質とも思えるサウンドの中にチラっと見せる職人技的なテクニックとパワーが魅力だったと思うのですが、サポート・メンバーにギターの渡辺香津美さん、キーボードの矢野顕子さんというとても「サポート」とが言えないような強力な2人が参加したこのツアーはまったく様相が異なっていました。既に日本国内ではかなり名の売れていたサポート2人は、すさまじいエネルギーとアクティブな演奏でYMOの3人や観客を煽っている、というちょっと独特の雰囲気の演奏が展開されていたのです。そういえば、当時、坂本さんと矢野さんは夫婦でしたね。この時の音源は残念ながら廃盤になっており、CDの入手は簡単ではないかもしれませんが、私の耳にはまだあの白熱のライヴが残っています。(この時のライヴは「パブリック・プレッシャー」というタイトルで今も販売されていますが、契約の関係で、これには渡辺さんのギターは全部カットされています。ギターの入ったヴァージョンは、You Tube等でなら聴けるかもしれません。)

しかし、私が坂本さんの活動としてぜひご紹介したいのは、YMOのそれではなく、ブラジル人のジャケス・モレレンバウム(チェロ)&パウラ・モレレンバウム(ヴォーカル)夫妻と一緒に制作した「CASA」というアルバムです。これは、全曲アントニオ・カルロス・ジョビンだけを収めた純粋のボサノヴァ・アルバムで、録音もジョビンの住んでいた家で行われたそうです。

坂本龍一ボサノヴァ、という組み合わせに違和感を覚える人は少なくないと思いますが、このアルバムは、とても美しいのです。ボサノヴァ特有の軽いリズムはさほど強調されませんが、メロディと歌声の美しさに酔いしれることができます。ピアノとチェロでボサノヴァを演奏するというのも珍しいと思いますが、これも、サウンドを上質かつ上品にするのに役立っています。曲によっては、まるでドビュッシー等のフランス音楽を聴いているような気分になります。そして、シンセサイザーの申し子のようなデビューの仕方をした坂本さんが、実はアコースティック・ピアノを弾かせても超一流であることがよくわかるのです。

ボサノヴァは、知的水準の高いエピキュリアン(享楽主義者)のための音楽だ」と評した人がいるそうですが、テレビをつけると気が滅入るようなニュースばかりが流れる昨今、こういうサウンドに身を浸して、ぼんやりと過ごす一日があっても良いように思います。

そういえば、坂本さんとともにYMOのメンバーであった高橋幸宏さんも、脳腫瘍のため、現在療養中ですね。彼の回復のニュースも、待たれるところです。

 

今回も最後まで読んでくださり、ありがとうございました。