明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常

元大学教員が綴るこれまでの経過と現在 。なお、入院と本格治療の経験については、00から34あたりまでをお読みください。 。

明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常83 入試問題の流出をめぐって

こんにちは。

 

オミクロン株によるコロナウイルス新規感染者数、なかなかピークアウトにならないですね。これだけ増えてしまうと、正直なところ、もう濃厚接触者は追いきれていないでしょう。そして、どこにいてもウイルスは潜んでいる、と覚悟を決めたうえで、日常生活を送っていくしかしょうがないですね。結局のところ、私たちにできる対策はこれまで通りでしかないのですが。

まあ、基礎疾患のある私はますます気をつけなくてはならないのはたしかです。こんな時は、必要以外の外出はなるべく避けて、音楽鑑賞や読書など、屋内での趣味の時間をゆったりと過ごすのがいちばんなのでしょうね。

職場の人手が足りなくなって、イライラしている方もいらっしゃるでしょうが、こんな時こそ、努めて、ゆっくりと過ごす時間を作った方がよいと思います。そうやって心に栄養を与えることが、きっと後日役に立つはずですから。

そんなわけで、前回に続きやや能天気なネタを書こうと思ったのですが、元大学教員としてはどうしても気になる大きなニュースが報じられましたので、今回はこれについて現時点で想うことを書きます。

それは、皆さんのご存じの通り、1月15日に行われた大学入学共通テストで、試験時間中に問題が外部に流出したという事件です。当初、複数の犯人による組織的な犯行あるいは最新鋭のIT機器を用いた巧妙な犯罪と思われていましたが、一昨日、現在はどこかの大学に在学中の女子学生でもある受験生が出頭し、自供を始めたそうですね。つまり彼女は仮面浪人だったわけです。仮面浪人を経験した学生には何回か接したことがありますが、大学に籍を置き、ある程度はそこでの勉強をこなしながら再受験をめざすというのは、かなりの負担であり、精神的にもかなりキツい日々を送ることになるようです。友達と話す機会もかなり限られますしね。ましてや、思うように成績が上がらなければ、プレッシャーは半端ないものになるでしょう。もちろん、だからといってこのような犯行が許されるわけではありませんが。

伝わっている自供によると、彼女は上着の袖口にスマホを隠し、動画で問題を撮影し、それを何らかの方法で30枚ほどの写真に変換(そんなことが簡単にできるアプリがあるのでしょうか? そちらの方面はまったく詳しくないもので、よくわかりません。)して、あらかじめ依頼していた外部の人間に送信していたようですね。私のような旧世代の人間には、袖口にスマホを隠したままで、テキスト文章も入力していた、ということだけでも驚いてしまいます。

驚いてばかりしていてもしょうがないので、彼女の自供をもとにすると、今回の事件の構図は以下の通りになるようです。

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産経デジタルの記事より

さて、ここまでは新聞報道等でご存じの方も多いでしょう。そしてすぐに思い浮かぶのが「試験監督は何をやっていたんだ? 本当に気がつかないなんてありえるのか?」という疑問でしょう。

そこで、試験監督が実際にどのように行われているのか、毎年のように経験していた者の立場から簡単に説明していきます。

まず、試験監督にはあらかじめ相当分厚いマニュアル(暑さ1cm程度)が配布され、監督員説明会も実施されます。このマニュアルには、当日の諸注意やタイム・スケジュールはもちろん、各試験時間に監督が行うべきこと、行ってはいけないことが事細かに記載されています。受験生に対しての指示のセリフも全部書かれていて、「この通りに喋れ」ということになっています。全国同じ条件で試験が行われるように、という配慮でしょうが、これを読んでいるだけでうんざりしてきます。それでも、これから大きく逸脱するようなことをする監督は多分ほとんどいないはずです。万が一の時には監督の責任が厳しく問われる可能性があるからです。ただ、共通テストに関しては、受験会場は居住地によって決まっているだけなので、自分の目の前にいる受験生たちが自分の大学を志願しているわけではありません。正直言って、これでは気合が入らないですね。

試験は、種々のアクシデントに対応するべく、あらかじめ対策が取られており、それもマニュアルを読めば、ちゃんと書かれています。ただ、毎年のように事項が付け加えられるので、あらかじめ大体把握しておかないと、いざという時にどこを読めばよいのか、焦ることになってしまいます。また、非常時対応や相互チェックのため、監督は最低でも各部屋に2名は配置されるはずです。インフルエンザ等の理由により別室受験が認められた者に対しても同様です。つまり、受験生1名に対して監督2名、という部屋も出てきます。昨年や今年のようにコロナ対応をしなければならないと、おそらく現場は人手がぎりぎり、あるいは足りない状況の中で、何とか回していくことになります。

机の上に出してもよい物は決められていて、もちろん、あらかじめ受験生には伝えられています。もちろん、携帯電話やスマホは禁止です。こうした通信機器は、電源を切った上で、カバンの中にしまわせます。また、カバンそのものは、教室の後ろや外の廊下など、受験生からは離れた位置に置かせます。(廊下には、連絡担当の事務の方が常にいらっしゃいますので、盗難の恐れはありません。)

ただ、それでもスマホを隠し持っていた、となるとその発見は難しいかもしれません。とくに女性の場合だと、あまりジロジロ見るのも失礼かな、と遠慮してしまうかもしれません。よほど怪しげな態度をとらない限り、見過ごしてしまう可能性は十分にあります。また、監督は全員ある程度以上の年齢ですから、今の高校生等のスマホ操作技術の高さは想定外のものかもしれません。先に書きましたように、上着の袖口隠したままテキスト文を入力するなどという行為は、およそ想像の外の世界になってしまうのです。

試験監督に関してはまだまだ紹介して面白そうなネタはたくさんあるのですが、長くなりすぎますので、ここからは、今回の事件に関する事だけ書きます。

私は当初、首尾よく外部から答えが返ってきたとしても、その画面を見ることが可能なのかどうか、疑問に思っていました。この点については、どのような方法をとったのか、まだ報道されていませんが、文章の入力ができたぐらいなら、これも簡単にできるのか、それとも彼女がどこかでウソをついているかのどちらかですね。実は私は、彼女の単独犯行だという説明をまだ100%は信じきれないでいるのですが、それはこうした疑問があるからなのです。

いずれにせよ今後こういったカンニング行為のリスクはますます増えるでしょう。通信機器も腕時計型や眼鏡型など、昔ならSFかスパイ映画の世界だと思っていた物がどんどん実用化され、手軽に入手できるようになっています。既に腕時計に関しては対応が取られ始めているようですが、眼鏡に関しては、普通に必要でこれをかけている人間にまで「外せ」ということはできないですから、厄介ですね。

根本的な方法としては、電波を遮断する装置を各会場に取り付けることですが、全国すべての会場、教室に取り付けるとなると、膨大な費用が発生してしまいます。なお、このような装置自身も電波を発しているので、その電波が総務省による規定以上の量である場合は、別途免許が必要美なります。つまり、万全を期そうとして大規模な装置を導入することは、安直にではできないのです。

これからの入試シーズンに向けて、文部科学省は「監督の徹底を」という指示を出しているようですが、実はこれも簡単ではない事情があります。過去の受験生からの苦情で、「試験監督の足音がうるさくて、試験に集中できなかった」というものがあり、それ以来、あまり教室の中をウロウロと歩き回るのはNGだとされているからです。だからといって、監督人数を増やそうとしても、上に書いたような事情で、おそらくどこも既にほとんど余裕がない状態です。

さて、こんな状況でこれからの入試をどのように行っていけばよいのでしょうか。私にも明確な答えがあるわけではありませんが、大学も「全入時代」つまり倍率1.0を切る大学が続出し、どこでもよいと思えば、どこにも入れないということはない、という時代に突入して言う今、学校に入るための試験、というものを根本的に見直すべき時期にさしかかっているのかな、という思いを強くした今回の事件でした。決められた期日に行われる入学試験という制度に膨大なエネルギーを注ぐような方法は、やがて終焉を迎えるのかもしれません。

 

今回は、ずいぶん長くなってしまいました。最後までつきあってくださり、ありがとうございます。