明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常

元大学教員が綴るこれまでの経過と現在 。なお、入院と本格治療の経験については、00から34あたりまでをお読みください。 。

明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常105 災い転じと福となす

こんにちは。

 

GWも終わってしまいましたね。後半は、かなり気温の高い日が多かったので、行楽にお出かけになった方は、疲れが残っているのではないでしょうか。明日から通常通りの仕事が再開される方は、くれぐれも無理をせず、体調と相談しながら、徐々にペースを元に戻すことを考えてください。この後、しばらく連休はありませんので。

 

さて、数回前に鉄道ネタの投稿をしましたが、今回もそんな感じで書いていこうと思っています。今回の舞台は近畿日本鉄道近鉄)です。

近鉄といっても、関西、そして名古屋近辺の方以外にはあまり馴染みがないかもしれませんが、営業キロ(運賃計算上の路線の長さ。実測値は若干異なることがあります)508.1kmを誇る日本最大の私鉄で、下の簡略図のように、大阪、名古屋、京都、奈良、伊勢志摩、吉野山等の大都市や観光地を結んでいます。また、大阪難波阪神電鉄と相互乗り入れを行っているため、神戸でも近鉄の車両を見ることができます。

この会社、近鉄としての設立は1944年ですが、各地にあった小規模な鉄道会社を合併しながら巨大化してきており、そのルーツは約110年前にまでさかのぼります。巨大化することによって、さまざまなバリエーションの特急電車を走らせることができ、路線によっては赤字を抱えているものの、特急電車の稼ぎによって、利益を出している状況です。

近鉄の主要路線図


ただ、合併を行ってきた弊害もあります。それは、同じ会社なのに、線路幅(ゲージ:つまりレールとレールの幅)が異なるものが混在してしまっているということです。

少しだけ基本知識を書いておきますと、鉄道の線路幅には日本に現存するものだけでも、以下のものがあります。

標準軌:ゲージ1435mm

狭軌:1067mm

ナローゲージ:762mm

またヨーロッパには、標準軌よりも幅の広い「広軌」と呼ばれるものもあります。

どの線路幅にするかは、それぞれの路線の地理上の特性や鉄道会社の財政状況によって決められるのですが、総じて、幅が広いほど安定した高速走行が可能で、車内もゆったりとしているのに対して、狭いほど小回りが利くカーブの多い路線に向いていて、トンネルや橋の規模が小さくなる分、建設費は安上がりになる、ということが挙げられます。

JRの各路線は、新幹線およびミニ新幹線標準軌である以外は、すべて狭軌です。これに対して私鉄は様々なのですが、関西には標準軌を採用する会社が多いのに対して、関東では狭軌で列車を走らせているところが多いようです。そして、当たり前のことですが、ゲージが異なるところを一台の列車が直通することはできず、乗り換え等の対応が必要になります。(フリー・ゲージ・トレインという方式も研究されていますが、技術的にかなり困難らしく、今のところ実現していません。)

近鉄の場合、現在は南大阪線大阪阿部野橋~吉野)が狭軌である以外は、ほとんどが標準軌です。しかし、1950年代半ばまでは、異なる会社が合併した弊害で、もっとばらばらでした。特に問題となったのが、名古屋線近鉄名古屋~伊勢中川)が狭軌であったことです。このことによって、名古屋から大阪への乗り換えなしの直通特急を走らせることができませんでした。新幹線がまだない時代、もしこの路線を実現できれば、国鉄から多くの乗客を奪うことができるのに・・・と当時の近鉄関係者は歯ぎしりしていたそうです。

そんななか、1959年9月、伊勢湾台風が日本列島を襲い、大きな被害が出てしまいました。死者・行方不明者合計5000名にのぼるこの台風の被害は、近鉄にも大打撃となったのです。つまり、名古屋側の海抜の低い多くの地域で線路が水没し、また橋脚が流されるなどしてしまったのです。その被害額がいかに甚大なものであったのかは想像に難くありません。

しかし、当時の佐伯勇社長は、めげない人でした。どうせ復旧工事をしなければならないのなら、いっそのこと、この機会に名古屋から伊勢中川までをすべて標準軌に作り直して、悲願であった名阪特急を実現させよう、と社内に大号令をかけたのです。そして、なんとわずか3か月ほどで、この大工事を完了させてしまったのです。現代だったら、「そんな突貫工事をして大丈夫なのか?」と問われるところかもしれませんが、当時はそういったことには社会は比較的無頓着で、この決断、行動力は絶賛されたのです。

なお、東海道新幹線が1964年に開通してからは、近鉄の有利さはかなり失われてしまいましたが、大阪市の南部の中心であるミナミまで名古屋から乗り換えなしで行けること、そして料金がJRよりもかなり安いこと、かなり贅沢なつくりの車両を投入していること等によって、この区間を利用する人は、今でもかなり多いのです。ちなみに、名古屋から大阪難波までの所要時間は2時間10~20分です。新幹線を利用すれば、30分以上短縮できますが、新大阪駅での乗り換えが必要なことに加え、そこからは大阪メトロ御堂筋線という非常に混雑した路線を利用しなければならないことを考えると、ミナミへ行くのなら近鉄特急、と考える人が多いことは十分に理解できます。

伊勢湾台風などという大規模な自然災害を予想し、あるいはこれに備えることには限界があります。ある程度の被害が出てしまうのは止むを得ないことかもしれません。ただ、それを単なるピンチと考え、その対応に追われるのではなく、次へのステップを踏み出すチャンスと捉えることができる人は、未来を自分の手で切り拓いていく力を持っている人、と言うことができるのでしょうね。色々と厄介なことが起きる現代社会こそ、そんな人(あるいはリーダー)が必要であると思います。

 

今回も最後まで読んでいただき、まことにありがとうございました。