明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常

元大学教員が綴るこれまでの経過と現在 。なお、入院と本格治療の経験については、00から34あたりまでをお読みください。 。

明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常142 並ぶ人、並ばない人

こんにちは。

 

ようやくコロナ第7波が落ち着きを見せる中で、ついに岸田首相は全国旅行割およびイベント割の実施を発表しました。外国人観光客の受け入れも本格化するようで、秋の行楽シーズン到来を前に胸をなでおろしている旅行関係業者は多いでしょうね。私達もまた、少し遠出をしようか、という気持ちが強くなっているところです。ただ、ウイルスに感染し、発病した方々の苦しい状況、とくに後遺症の深刻さについては多くの報道がなされており、これからも消毒やマスクなど、気をつけていかなければならないことには変わりがありませんね。色々と気を遣い、配慮をしながら、秋を楽しんでいきたいものです。

 

先日、大雨の降る中をバスに乗車して、ぼんやりと外を眺めていると、ラーメン屋さんの前に20人~30人の行列ができているのを見て、驚いてしまいました。この店は普段から人気がある店で、いつも行列が絶えないのですが、それにしても悪天候の中、傘を差しながら待つとはご苦労さまなことです。ラーメンですから回転は速いでしょうが、それでも10分程度で入店できるということはないでしょうね。ちなみに、このお店、真夏で気温が35度を超えているような日でも、やや人数は少ないものの、行列ができています。熱中症になりそうな身体で食べる熱いラーメンって、どんな味なんでしょうか。

 

人はなぜ飲食店で行列を作るのか? これは行動心理学的に色々と分析がなされています。もっともスタンダードなのは、いわゆるバンドワゴン効果の理論に基づくものです。バンドワゴンとは、パレードの先頭をゆく軍楽隊の車のことで、パレードはその後をついていくことになります。このことから転じて、先頭を歩く人、あるいは世間の流行や評価に追従して自分の行動を決めてしまうことをバンドワゴン効果と言うのです。たしかに、飲食店の前に並ぶ人の多くは、マスコミやネットで紹介されたことをきっかけにその店のことを知り、その味が自分の舌に合うかどうか、店の雰囲気が自分の好みであるかどうかは二の次になってしまい、「とにかく自分も体験してみたい」という心理のみで行動するのかもしれません。もちろん、多くの人が高く評価しているのだから、安心だろう、という心理も強く働いているはずで、これがバンドワゴン効果が起きる最大の原因だろうと思います。「時流に乗っておけば間違いない」というわけですね。また、社会の中での他者との同質化願望が強い人ほど、行列を作るという傾向も指摘されています。

しかし他方で、行列に並ぶことを極端に嫌がる人もいます。こうした人は、必ずしもその店に興味がないわけではないのですが、「他人と同じことはしたくない」という意識が強く働く傾向にあると言われています。これを心理学では「スノッブ効果」と呼んでいます。

こうした行動心理学的な説明では、ふたつの効果は正反対のもののように思えてしまいますが、実際にはそうではありません。両方とも、結局のところ他人の行動や評価に影響されているという点では共通しているからです。つまり、やや受け身的な行動ということになるのかもしれません。

でも、この説明だけではなんとなく寂しくありませんか? たしかに私達はいつも他人に影響されていて、それは避けようがないのですが、そんななかで自分の判断基準や価値観をそれなりに形成しているものではないでしょうか。最終的にどのように行動するのかは、その判断基準が大きく左右する筈です。決して流行に乗ったこと(あるいは、乗らなかったこと)だけに満足しているわけではないと思うのです。

ラーメン屋さんの例でもう少し説明しましょう。行列を作って長時間待つ人にとっては、その待っている時間も「ほどよいスパイス」になり、だからこそより美味しく感じることができるのです。もちろん、後でSNSにアップしたり、友達に自慢したりすることも考えているでしょうが。(こうした行動を「見せびらかし消費」と呼びます。またヴェブレン効果とも称されています。)しかし、実際にそんなに美味しく感じられなければ、そうした行為も空しいものになってしまうことは、彼等もよく知っているはずです。つまり、やはり自分が美味しいと感じるかどうかが最も重要だと思うのです。当たり前のように聴こえるかもしれませんが、どうも心理学者たちは人間の素の感性をそのまま素直には認められないでいるような気がします。

他方、行列を嫌いな人は、待つ時間そのものが食べ物の味を減退させる、と考えているように思います。どんなに美味しいものでも、長時間炎天下や大雨の中を待たされたら、「もう、どうでもよい」と思ってしまうに違いないと自覚しているからこそ、はじめから列の最後尾に並ぶようなことはしないのです。

自分の価値観というものは、長年のさまざまな経験と蓄積の中で自然と形成されていくものですから、それに対して自覚していない人も多いかもしれません。でも、過去の自分を振り返ってみれば、誰でも必ず自分なりの価値観あるいは「こだわり」のようなもの、そしてどのようにしてそれが培われてきたのかがわかると思います。

私がラーメン屋さんで行列に並ぶとしたら、そんな自己分析をしながら待ちたいですね。でも本当は、食事のために行列を作るのは好きではありません。他に店の選択肢がないのならば止むを得ないですが、どちらかというと、行列を見ただけでげんなりしてしまう私です。

でも、これはどちらが良いという話ではなく、それぞれの価値観で行動するのであれば、他人から文句を言われる筋合いのものではありませんよね。

これから食欲の秋。皆さん、健康には注意しながら、美味しく食事しましょう。

 

今回も、最後まで読んでくださり、ありがとうございました。