明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常

元大学教員が綴るこれまでの経過と現在 。なお、入院と本格治療の経験については、00から34あたりまでをお読みください。 。

明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常276 指揮者ブロムシュテットの挑戦は続く

こんにちは。

 

日々、冬らしい寒さが感じられるようになりましたね。空の色も何だかどんよりとしています。皆さん、暖かくしてお過ごしください。

 

さて、本日はまず前回の簡単な補足から。

前回、「炎症反応」という言葉を使いましたが、普段血液検査等を受けていない人にはなじみの薄い言葉だったかもしれませんので、簡単に解説しておきます。

これは、簡単に言えば、体がケガや感染などで傷ついた時に起こる自然な防御反応のことです。つまり、体が何らかの原因で傷ついたときに「えらいこっちゃ」と、その部分を直す手助けをするわけです。例えば、皮膚の表面が赤く腫れてしまったり、熱が上がったりしたときが、炎症反応が起きている証拠です。通常値(CRP)は0.3mg/dL以下とされています。ただし、この値が高いとしても、それだけでは、体の中で何が起きているのかはわかりません。軽いけがでもある程度数値は上がってしまいますし、インフルエンザに罹患しても、一定の期間は数値が上がります。ただし、それらは対象となるけがや病気が治ってしまえば、数値は元に戻ります。しかし、数値が10を超える場合や、なかなか下がらない場合は、入院の上、精密検査が必要になるのです。

私の場合、前回4.60という異常値だったため、多発性骨髄腫の治療は中止となったのですが、2週間後の今回(昨日)は0.1と正常値に戻ったため、治療は再開です。やれやれ。

なお、前回数値が上がったのは、おそらく、軽い風邪にかかっていたことと、バスから降りる際に派手に転倒してしまって、膝にケガをしたことが原因かな、と思っていますが、まあ、いずれにしろ、元に戻ったのですから、いいですよね。

 

さて。本日のテーマです。皆さんは、ヘルベルト・ブロムシュテットというクラシックの指揮者をご存じでしょうか?

日本では専門家の評価はさほど高かったわけではありませんし、一般のリスナーの間でも必ずしもトップ・クラスの人気を誇ってきたわけではありません。しかしこの人が、最近になってにわかに大きな注目を浴びているのです。それは、この人がこのたび97歳という高齢にもかかわらず、来日し、NHK交響楽団を振る本格的な演奏会を行ったからです。

この人、生まれはアメリカですが、両親ともにスウェーデン人だったことから、幼い時から北欧の音楽に親しんでいたそうです。そして、プロの演奏家になってからも、北欧音楽を得意レパートリーにしているのですが、それだけでなく、ベートーヴェンブラームス等、ドイツ音楽にも深く精通しています。(インタビューでは、この人がまるでネイティブであるかのように、ごく自然にドイツ語でやり取りをしているところからすると、かなりドイツの文化や音楽を勉強したことがうかがわれます。)

それでも、この人の日本での人気が今一つであったのは、ひとつにはやはり北欧音楽という比較的マイナーな分野を主要な得意分野としていたこと、第二にこの人の音楽づくりの姿勢がとてもきちん整理されたものであって、言ってしまえば少し面白みに欠けるということ、そして第三に、これは私の単なる偏見ですが、見た目がまるで堅物の銀行員のようで、そのことが第二の要因と重なることによって、 なんとなく避ける人が多くなってしまったということがあげられるようです。

さて、そうした来歴等はともかくとして、今回の来日でのステージです。

NHK交響楽団定期演奏会でのプログラムは、以下のの下の通りです。

Aプログラム(12月8日放送済、12月14日まではNHK+で視聴可能)

オネゲル交響曲 第3番「典礼風」

ブラームス交響曲 第4番 ホ短調 作品98

Bプログラム(12月15日放送予定)

シューベルト交響曲 第7番 ロ短調 D. 759「未完成」

シューベルト交響曲 第8番 ハ長調 D. 944「ザ・グレート」

12月7日(先週日曜日)、このうちAプログラムがNHKで放映されたのですが、これは本当にとても素晴らしいステージでした。クラシックに少し知識のある方ならわかると思いますが、このオネゲルブラームスの曲、いずれもかなりのボリュームで、演奏するのはかなりの技術と体力を必要とするものです。ちなみに、標準的な演奏時間はオネゲルが約35分弱、ブラームスは40分強です。これだけでも、かなり大変なことが想像できますが、両曲ともに技術的にもかなり高度なものが要求される「大曲」で、このふたつを一晩で演奏するとなると、指揮者のみならず、オーケストラのメンバー全員がかなりの疲労感に包まれてしまうことは間違いないはずです。

そんなプログラムを、ブロムシュテットは見事な棒さばき(指揮棒は使っていませんでしたが)を披露してくれました。自分の音楽観をとても明確かつ明快に団員に伝えようとする姿勢は、とても気持ちのよいものでした。さすがに立ちっぱなしはキツかったのか、終始椅子に座っての指揮でしたが、個人的には、こんなに音楽的な指揮を見たのは久しぶりだなあ、と感銘を受けた次第です。

実はこの人、昨年来日する予定だったのですが、体調不良により断念し、代わりに今年の来日となったのですが、そのためもあってか、本人も、そして団員を含めた周囲も、とても熱い気持ちで今回の演奏会を迎えたようです。それにしても97歳という年齢を考えると、もう「感銘」という言葉では言い表せないほどの気持ちが心の底から湧き上がってきたことは否定できません。と同時に、この人は何歳まで現役を続けるのだろうか、という素朴な思いが湧いてきたことも確かです。

正直なところ、ブロムシュテットが今後何回も来日し、長年にわたって現役として華々しい活動を続けてていくのかというと、さすがにそんな期待はできないでしょう。ただ、この年齢でこれだけの演奏をできる人が引退するとしたら、どのようなタイミングになるのでしょうか。

今回のような意欲的なプログラムに挑戦する97歳の指揮者には、今後も、今回見せてもらったとても前向きな姿勢を崩さず、熱い気持ちで挑戦を続けてもらいたいものです。

 

「引退」という二文字が脳裏に浮かぶのは、なにも指揮者や演奏家、あるいは芸術家等にかぎったことではありません。あらゆる人は、どこかのタイミングで、自分のビジネス・キャリアに踏ん切りをつけ、引退という道を選ぶことになるのです。その時、その人はどんな気持ちになるのでしょうか。

もちろん、私自身もそうした道を通ってきた一人です。

そこで、次回は、そうしたことも踏まえて、キャリアの終焉と引退ということについて、もう少し考えていきたいと思います。

 

今回も、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。