明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常

元大学教員が綴るこれまでの経過と現在 。なお、入院と本格治療の経験については、00から34あたりまでをお読みください。 。

明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常199 with cancer(がんとともに)

こんにちは。

 

先日、多発性骨髄腫の罹患者である俳優の佐野史郎さんが、腎機能の深刻な障害のため、緊急入院した、というニュースが流れてきました。実は、多発性骨髄腫はしばしば腎不全を引き起こすという副次的な問題があることは、よく知られています。私自身、9年前に入院して、多発性骨髄腫という診断を受けた当初は、腎臓の働きが通常の30%程度までに低下しており、まずはその回復に努めることが当面の課題となっていたのです。私の場合は、それは1週間程度で70%までに回復し、その後は、深刻な状況に陥ったことはありませんが、薬の副作用も含めて、この病気の患者にとっては、いつも気にしなくてはいけないことのひとつなのです。佐野さんの場合、がん細胞が再活性化してきたことが原因なのか、それとも何らかの薬の副作用なのか、まだ不明なようですが、同じ病気をもつ身としては、今後の動きを注視していきたいと思っています。そして、佐野さんの一日も早い回復をお祈りします。

 

佐野さんは68歳で、決して若いと言える年齢ではありませんが、俳優としては、まだまだやりたいことがあり、本格復帰を目指しておられるようです。しかし、自由業や自営業に携わっておられる方以外、つまり企業や行政機関等に勤めて、給与所得を得ている方にとっては、がんという病気に罹患した時、仕事をどうするのか、ということは大きな悩みごとになってしまいます。

若い時ならば、何としてでも職場復帰という強い希望をもつ方も少なくないでしょう。最近のがん治療の発達や5年生存率、10年生存率の上昇を考慮するならば、これは当然のことでしょう。何よりも、生活のための収入を得ていくには仕事をしなければならない、という事情を抱えていることが一般的です。

もちろん、厚生労働省等もそのことは承知していて、「治療と仕事の両立支援」を推進することを大きなテーマとして掲げています。私自身、何度か厚生労働省の主催するシンポジウムやフォーラムに参加したことがありますが、そこでは、「健康経営」をキーワードに、この問題に積極的に取り組んでいる企業の事例がたくさん紹介されていました。それはそれで重要なことですし、中小企業等も含めて、この動きがもっと広がることを願うばかりです。

しかし、解決すべき問題はそれほど単純ではありません。

がんの罹患リスクは、年齢が高くなるほど上昇します。女性は40歳台半ば、男性の場合は60歳を迎えた頃から、その発症率は急激に上昇します。しかし、この60歳という時期は、そろそろセカンド・キャリアや退職後の人生を考える時期でもあるのです。そんな時に自身ががんに罹患したとしたら、どんな気持ちになるでしょうか。なんとか元の職場への復帰を、という気持ちよりも、「これは潮時だな」と思ってそのまま退職という道を選ぶ人が多くても、不思議はないでしょう。もちろん、退職すること自体は否定されるものではありません。しかし、場合によっては、誰にもきちんとした相談をせずに、性急な結論を下してしまう、ということになってしまう事態も珍しくないのです。

治療と仕事の両立とは、単にこのふたつを同時に行うことではありません。その人の病気の状況、経済状況、年齢、心理状況、家庭状況等を総合的に勘案しなければ、決して納得のいくような結果は得られないのです。

しかし、このような患者に寄り添って総合的判断とアドバイスを下せるような専門家や機関はまだまだ少ないのが現状です。これから「人生100年時代」を迎え、仕事からのリタイア年齢も70歳、75歳と延びていくことが予想される中で、このような観点から患者支援を進めていく必要性は、ますます高くなっていくでしょう。また、その際には、心理面のカウンセリングや「罹患者としての人生の歩み方」を指導・助言する体制も整える必要があるのかもしれません。

 

ここからは、個人的な意見になります。

多くの人はあまり深く考えずに「闘病」とか「病気に打ち勝つ」という言葉を使ってしまうことが多いように思います。しかし、長期の治療や療養を必要とする病気の罹患者にとって、その病気はもはや自分自身の一部であり、それとうまく付き合っていくことが日常なのです。少なくとも、私自身は「病気と闘っている」という感覚を抱いたことはありません。言わば「with cancer(がんとともに)」なのです。

今はまだ大きな病気を経験していない人にも、ぜひこのことを理解していただきたいと思っています。そうした流れがもっと進むことによって、本当の意味での「支援」が進むと思うからです。

 

 

今回も、最後まで読んでくださり、ありがとうございました。