明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常

元大学教員が綴るこれまでの経過と現在 。なお、入院と本格治療の経験については、00から34あたりまでをお読みください。 。

明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常198 映画「ローズ」

こんにちは。

 

日に日に夏っぽい気候になってきましたね。湿気の多さも気になります。体調管理は万全に、これから本格化する盛夏に備える必要がありますね。

 

ところで去る第191回の投稿(今年の5月7日アップ済み)で、私の大好きな映画「アマデウス」について書きましたが、その時に、あと2作品、タイトルだけを記しました。今回はそのうちのひとつ、「ローズ」についてです。

この映画、「アマデウス」と比べると知名度は若干低いかもしれませんが、アメリカでは非常に高い評価を得た作品です。とくにロック・ミュージックが好きな人間にとっては「マスト・アイテム」と言えるかもしれません。

アメリカの伝説的ロック・スターにジャニス・ジョプリンという女性がいます。1943年生まれの彼女は、1960年代後半、当時のヒッピー・ムーヴメント、フラワー・ムーヴメント、学生運動ベトナム反戦運動などの波にものって、一気にスター街道を駆け上がったのです。とくに、その独特のハスキー・ヴォイスがなんとも言えず魅力的な歌声には、多くの人が魅了されたのです。しかし、私生活はかなり破天荒で、ドラッグやアルコールを過剰摂取していたようで、結局、わずか27歳でその短い人生を終えています。代表曲としては、Move Over”、“Piece of My Heart”、“Me and Bobby McGee”など、今でも輝きを持っている曲はたくさんありますが、私がもっともしびれたのは“Summer Time”。この曲はジョージ・ガーシュインが作曲したためか、クラシック畑の人が多く取り上げていますが、ジャズの世界でも、スタンダード・ナンバーとしてしばしば演奏されます。つまり、それだけさまざまな要素を持っており、独特の浮遊感と気だるさが印象的な曲なのですが、それだけに、これを演奏するのはけっこう難しいらしく、納得のいくような演奏にはなかなか出会えません。ですが、このジャニス版はそれらすべてを凌駕する強烈なインパクトを持っており、その壮絶ともいえる歌唱は聴く者を圧倒します。この一曲を聴くだけで、彼女の魅力が何となくわかるだろうと思います。

 

さて、前置きが長くなりました。

「ローズ}はそんな波乱に満ちたジャニスの半生を題材にしてつくられたものです。といっても、ここでの主人公である女性歌手はRoseという名前です。つまりジャニスそのものを扱った映画ではありません。主演しているベッド・ミドラーは、歌の世界とブロードウェイや映画での俳優としての世界の両方で大成功を収めたのですが、映画俳優としての本格主演はこの映画が初めてです。

ストーリーは、ローズは既に大スターになった後から始まります。どこに行ってもちやほやされ、スター扱いされるものの、殺人的なスケジュールと私生活の制約がどんどん厳しくなることに、ローズは嫌気がさし、以前よりも酒と麻薬の摂取量が増えていきます。それでも、何よりも歌うことの好きな彼女は、ステージに上がれば完璧な歌唱で聴衆を魅了します。移動の途中で立ち寄ったパブでも小さなステージに飛び入り参加してしまい、マネージャーたちをやきもきさせる、というか激怒させてしまいます。そう、彼女はビジネスの世界にはほとんど興味を持たない「根っからの歌手」なのです。時として勝手な行動をとり、スタッフと大喧嘩し、たまたま知り合ったタクシー運転手と愛の逃避行をして雲隠れするものの、ここでもまた大喧嘩してしまい・・・という感じで、彼女を支えてくれる人はだんだん周囲にいなくなってしまいます。なにせ、ステージで「Drug! Sex! Rock‘n’roll!」と叫び、聴衆を煽り立てるのですから、スタッフ側からすれば、とても頭の痛い存在だったのです。それでも、超売れっ子の彼女を切り捨てることはできません。彼女自身、そのことは十分理解しているため、ますます孤独感にさいなまれてしまいます。

自分を理解してくれる人がいなくなったことに絶望した彼女は、助けを求めて、マネージャーに電話します。結局、彼女の帰るところは、ステージしかなかったのです。この、公衆電話のシーンは、映像としてもとても美しく、ハイライト・シーンのひとつだと思います。

マネージャーに連れられて彼女が向かった先は、巨大スタジアム・コンサートの会場。そう、彼女は故郷で行われる大きなイベントで、数万の観客が待っているのをすっぽかして、好き勝手に行動していたのです。ヘリコプターから直接ステージに降り立った彼女は歌います。“Stay with Me”

腹から絞り出すような熱唱は、彼女自身の心からの叫びのようです。

そして・・・

 

ベッド・ミドラーという歌手は、本来とても滑らかなアルト・ヴォイスで、歌心溢れる歌唱をする人です。しかし、この映画ではまったく異なり、終始、ハード・ロック的な歌い方、つまりシャウトだけで押し通すような歌い方です。つまり、本職とするところとはまったく違う歌いかたで、ローズという人間になり切っているのです。(エンディングで流れる主題歌”Rose”のみ、彼女の本来の声が聴けます。)

1979年に公開されたこの映画は。当時日本では大ヒットには至りませんでした。しかし、ロック・ミュー

ジシャン達に与えた影響は多大なものがあり、私自身、ロックという音楽の魅力を再認識した契機になった映画です。

現代では、ロック・ミュージックという音楽そのものが何となく時代遅れのようになりつつあり、とくに若い人の中には、「あんなうるさくて暑苦しい音楽は聴かない」という人も少なくありません。しかし、あまりにも破天荒な、そして華やかなのに切ない人生を送った一人の女性を実に生々しく描いた映画として、今でも記憶にとどめるべき作品だと思います。

繰り返しますが、これはジャニス・ジョプリンの伝記映画ではありません。監督もそのように明言していますし、実際、映画の中で歌われる曲には、ジャニスがレパートリーとしていたものは含まれていません。それでも、ここでの歌がジャニスのオリジナルだと勘違いしている人が案外多いようです。まあ、それだけ映画のインパクトが強い、ということなのでしょう。

 

今回も、最後まで読んでくださり、ありがとうございました。