明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常

元大学教員が綴るこれまでの経過と現在 。なお、入院と本格治療の経験については、00から34あたりまでをお読みください。 。

明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常144 ロシアは国民総動員で突き進むのか?

こんにちは。

ロシアのプーチン大統領が、ついにウクライナの東部と南部の4州の併合を宣言しました。そして、これらの州をロシアの領土として、「あらゆる手段を使って守る」と述べたそうです。もちろん、国際的にはこうしたほとんど一方的な併合宣言は正当なものとは認められないでしょうし、ウクライナも黙っているはずがありません。事実、ウクライナのゼレンスキー大統領は、今回のロシアによる侵攻当初からひとつの焦点と見られていたNATOへの加盟申請を表明し、ロシアに対して強い牽制を行った形です。いよいよこのような事態まで来てしまったか、と思うと、本当に気持ちが沈みます。

 

ところで、1970年前後にアメリカで大ヒットしたミュージカル「ヘアー」をご存じでしょうか。当時アメリカは長く続くベトナム戦争に対する反発と忌避感がとくに若者を中心に渦巻いていました。ヒッピー・ムーヴメント、フラワー・ムーヴメントに代表される新しい価値観が生まれ始めていた時代でもあります。これに学生運動公民権運動が結びつくことによって、社会全体が混とんとしていたのです。物語の詳細はネタバレになってしまいますので書きませんが、この物語の主人公はそんな時代に地方から都会へやってきて新しい文化や考え方に刺激を受け、これまで接したことのなかった新しい仲間との交流を深めていきます。しかし、そんな彼に召集令状が届くのです。仲間たちの反対もあり、かなり戸惑いながらも結局兵役につこうとする彼と、仲間たちの心情・葛藤が見事に描かれます。そしてラストではとんでもない展開が待ち受けています。戦争に一般市民が参加するということについて深く考えさせられる物語ですが、音楽は基本的にビートの効いたロックのサウンドで、ポピュラー音楽としても非常に優れたものとなっています。代表曲2曲をメドレーにした「輝く星座(アクエリアス)/レット・ザ・サンシャイン・イン」(フィフス・ディメンションによる歌)は大ヒットしましたので、曲を聴けば、誰でも聞き覚えがあることに気づくだろうと思います。また、その後映画化もされていますので、何となく知っている方も多いのではないでしょうか。

もうひとつ。明治を代表する歌人である与謝野晶子の有名な歌に「君死にたまうことなかれ」があります。これは日露戦争当時に書かれたもので、彼女の弟さんが召集令状を受け取り、中国の旅順に出征したことを嘆き、「人を殺させるためにこれまで育ててきたわけではない」と諭すようにうたったものです。今でこそ、日本で始めはっきりと反戦を表明したものとして、肯定的に紹介されることが多いのですが、当時の日本の風潮としては、国民のすべてが戦争に協力していかなければならない、という考え方が非常に強く、この歌は猛烈なバッシングを受けることになります。彼女は毅然とした態度で反論しますが、下手をすると投獄されてしまうような行動をとることには、おそらく相当の勇気が必要だったでしょう。ただ、国民のすべてが戦争を望んでいたわけではありません。そうではなくて「自分が戦争に巻き込まれ、身内が亡くなってしまうかもしれない」という恐怖や絶望感にさいなまれているのに、正面から戦争に異議を唱えることに戸惑いいらだちを感じたということなのだろうと思うのです。

 

なぜ、このような作品を出したのかはお分かりですよね。言うまでもなく、プーチン大統領が30万人にものぼる予備役の召集を命令し、これに治して、収集を逃れるために国外への脱出を試みる市民が続出しているというニュースに接したからです。また、兵役を免れるためと思われますが、「腕の折り方」というキーワードがロシア国内における検索ランキングで急上昇したというニュースも伝わってきています。

もちろん、ロシア国民のすべてが戦争への参加を避けようとしているわけではなく、「いよいよ俺たちの出番だ」と抑えようのない高揚感を抱いている人々もかなり多いようです。しかし、いずれにせよ、徴兵あるいは召集というものが、一般市民の生活を大きく変えてしまうものであり、そのことに対するさまざまな感情の揺さぶり、動揺が広がっていることは確かでしょう。このブログでも再三書いてきましたが、戦争でもっとも大きな影響を受けてしまうのは、結局のところ、政治家や軍人ではなく、一般市民なのです。

 

現代の日本では、徴兵制はありません。しかし、調べてみると、徴兵制がある国は、近年になって復活させている国も含めて、意外なほど多数存在しています。その数は、国連加盟国の中で軍隊を有している国家の内の約3分の1に上るそうです。もちろん、国によってそれぞれ事情は異なりますので、徴兵制があるからといって、一概にこれを否定的に捉えることはできません。例えば、スイスでは2013年に徴兵制度存続の是非をめぐって国民投票が行われていますが、その結果は73%が廃止反対というものでした。これは永世中立国としての立場を守るためにはどうしても必要なものであるという意識が、国民に広く根付いている証拠でしょう。また、徴兵制といっても、その中身はかなり様々なものになっており、社会奉仕活動等をこの中に位置づけている国もあります。つまり、必ずしも「軍隊に入る」ことだけを意味しているのではないのです。

つまり、徴兵制そのものを一面的に捉え、論じることは危険です。しかし、少なくともそれが「戦場に派遣される可能性がある」というものであるならば、その人たちの生活は一変するものとして、常に暗い影を落とすことになる事は確かでしょう。そして、最悪の場合、一般市民同士が武器を向けあうということには、どんな理由があるにせよ、容認できることではないのです。

現在、ロシアの人々にとっては、国家の方針に少しでも反対の姿勢をとれば、戦場に送られてしまうという恐怖が現実のものとして自分の身に降りかかっています。これに毅然と反対することは、「非国民扱い」されてしまうというのも、戦争状態に陥った国々の恐ろしい状況です。

今一度、戦争でもっとも大きな痛手を被るのは一般市民であることを世界のすべての国が認識したうえで、それぞれ、もっともふさわしいと思われる平和への道筋を考えていくべきでしょう。

 

今回も、少し重い話題になってしまいましたが、最後まで読んでくださり、ありがとうございました。