明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常

元大学教員が綴るこれまでの経過と現在 。なお、入院と本格治療の経験については、00から34あたりまでをお読みください。 。

明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常191 映画「アマデウス」

 

こんにちは。

 

この時期は、新録の勢いがどんどん増してきますし、さまざまな花が咲き誇っています。暦の上では既に立夏を迎え、気温はどんどん上昇していますが、植物たちの息吹が聴こえるようなこの季節が、私は結構好きです。先日植物園を訪れましたが、ここでは植物たちに加えて、子供たちのはしゃぐ姿にも癒されました。

京都府立植物園のバラ 間もなく見ごろ、という感じです

同上 遠くの比叡山も美しいですね


GWはもう終わりですが、もう少しだけ休暇気分を味わうために、今回はエンターテインメントのネタを。

誰でも、これまでに見た映画の中で、なにかひとつは何回も見たもの、とても印象に残っているものがあると思います。私の場合は、3つあげるとしたら「アマデウス」、「ローズ」、そして「ショーシャンクの空に」になります。「ローズ」や「ショーシャンクの空に」も見た後しばらく現実に戻るのがもったいないような気分になる素晴らしい映画でした。数回見ましたので、けっこう細かい場面も覚えていますが、映像の美しさも秀逸です。

これらについても、いずれもう少し詳しく書きたいのですが、今回はもうひとつの作品「アマデウス」についてです。

アマデウスとはウオルフガング・アマデウスモーツアルト、つまりあまりにも有名なあの作曲家モーツアルトのことです。この映画は、当時ライバルという設定のサリエリ(こちらも実在の大作曲家で、今でもいくつかの作品は残されています。)の目線を通して、モーツアルトの波乱に満ちた生涯を描いたものです。それまで、クラシック・ファン以外には人物像があまりはっきりしていなかったモーツアルトですが、この映画が公開された1984年以降、そのやんちゃで破天荒な、しかし新たな時代をすさまじい勢いで切り拓いていくバイタリティ溢れる「天才モーツアルト」のイメージが確立したのです。もちろん、映画ですから、誇張された部分も多いのですが、それだけ見る者に痛烈な印象を与えたということです。

これに対して、サリエリは典型的な宮廷音楽家で、考え方も、彼のつくる曲も、よく言えば伝統をきちんと踏襲したもの、少し悪い言葉を使うなら、古臭いものとなりつつあったのです。そんなわけですから、サリエリモーツアルトに対して猛烈な嫉妬心を抱きます。しかしモーツアルトはまったく無頓着。そのことが、余計にサリエリをイライラさせる、という図式で物語は進みます。

誤解のないように補足しておきますが、これはあくまで、この映画でそのような設定がなされている、ということであって、すべてが事実というわけではありません。たしかに、かつてはモーツアルトの死因について「サリエリによる毒殺説」が研究者の中でも語られたことがあったのですが、この二人が生きている間にどの程度関わりあっていたのか、少なくとも描かれているほど日常的に顔を合わせていたわけではないと思います。ただ、サリエリという人がかなり保守的な考え方の持ち主であったことはたしかなようです。この人は、シューベルトの作曲技法の先生でもあったのですが、その非常に厳格で型にはまった教え方に、若き日のシューベルトは随分苦しんだそうです。(そのためか、シューベルトの習作の中には、後の彼の作品にみられるような魅力的なメロディはあまり顔を出さないものが多いようです。)

さて、よく知られているように、モーツアルトはその晩年(といっても30歳台ですが)、人気は衰え、体調も崩してしまったため、いわばヘロヘロの状態になってしまいます。そしてついに、公演中に倒れてしまいます。その後、自宅に戻った彼にサリエリは付き添うのですが、そこで、依頼されていた「レクイエム(死者のためのミサ曲)」の一節を作曲し始めます。体調が最悪なのにもかかわらず、溢れんばかりのアイデアを口走り、あるいは歌って見せる彼の姿に半ば圧倒されながらも、サリエリは、それがとんでもない名曲だと直感したのでしょうか、モーツアルトの想いを五線譜に書き留めて、協力するのです。

この場面は、音楽好きならばドキドキ感が止まらないはずです。そのぐらい、この主人公二人の迫真の演技は、この映画を永遠に残る名作に押し上げると言っても過言ではないと思います。(ただし、このシーンもまったくのフィクションで、二人が共作したという事実はないようです。)

そんなわけで、わずか35歳での生涯を終えたモーツアルトに、その後も生き続けたサリエリはどんな感情を抱いたのか。最後のシーンで語る彼の姿もまた、名シーンです。

全編モーツアルトの曲が使われているのですが、とくに冒頭で流れる交響曲第25番第1楽章の激流のようなフレーズと、エンディングで流れるピアノ協奏曲第20番第2楽章の天国のような調べは、本当に印象的です。また、クラシックにさほど興味のない方も、人間心理を克明に描いた作品として、面白く鑑賞できると思います。

まだご覧になったことのない方は、ぜひ一度、この映画に触れてみることをお勧めします。

 

今回も、最後まで読んでくださり、ありがとうございました。