明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常

元大学教員が綴るこれまでの経過と現在 。なお、入院と本格治療の経験については、00から34あたりまでをお読みください。 。

明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常200 図書館の復権

こんにちは。

 

まだほとんどの地域では梅雨は明けていないようですが、この数日、気温は連日30度どころか35度に達している所も数多く見られます。かと思うと大雨が来たりして、本当に天候が不順ですね。

ずいぶん昔の話になりますが、学生時代はこの時期になると、涼を求めて、大学の図書館に入り浸っていたことを覚えています。あの頃、まだ教室にはほとんどエアコンは入っていませんでしたし、喫茶店に行くとコーヒー代がかかってしまいます。結局、カネをかけずに涼める場所というと、図書館ぐらいしかなかったのです。もちろん、本や新聞を読んだりすることもできますしね。

 

昨今は、ネットでさまざまな情報を収集したり、本を読んだりすることができるようになったため、学生たちは図書館をもっぱら勉強場所として使っているようです。今の時期だと、ちょうど公務員試験が迫っていますので、その勉強のために、一日中図書館で過ごしている学生も少なくないようです。机は広いし、周りは静かだし、冷房代もかからない。腹が減れば、近くにある学生食堂に行けばよい。まあ彼等からすれば、天国のような場所なのかもしれません。毎日同じ席に陣取っている者も多いのです。

しかし、こうした一部の人以外にとって、図書館は次第に縁遠い存在になりつつあるようです。そもそも「本を読む」という時間そのものが減っているようですし、先に書いたように、調べものなら、自宅でネットを通じてできるのです。

しかし、大学図書館に限らず、公立の図書館等も含めて、各図書館は相互利用や相互貸借などをどんどん進めています。手に入りにくい資料なども、他の図書館にコピーを依頼できるサービスもあります。さらに、カウンターにいらっしゃる司書の方に質問をぶつけてみれば、自分では見つけられなかったものに出会うこともあります。これらをうまく利用すれば、あちこちに出かけなくても、ひとつの図書館に行くだけで、めぼしい資料はほとんど入手できる体制が、日本中で整えられているのです。ただ、こうした利用の仕方が増えすぎると、図書館側の手間が大変になるためか、さほど積極的にはこのことを広報しているところは少ないように思います。言い換えれば、「知っている人だけが便利に使える」という状態ですね。これを不公平と思うのはちょっと筋違いでしょう。とにかく一度、図書館を訪れてみて、少しずつ利用方法に慣れていくことができれば、ネットを通じての情報収集とは一味違ったものになると思います。

 

図書館を巡る動きとしてはもうひとつ、図書館そのものにエンターテイメント性を持たせるという動きが広がっていることが注目されます。そして、これにはふたつの流れがあります。

ひとつは自治体の財源問題等とも絡んで、図書館の運営自体を全面的に民間業者に委託する方法です。代表的なのが、いわゆる「ツタヤ図書館」です。これは大手のレンタル・書店であるツタヤ(蔦屋あるいはTSUTAYAという表記の店もあります)を運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(CCC)を各自治体が指定管理者として、その運営の一切を任せるもので、オシャレなカフェやくつろぎのスペースを併設して、誰でも気軽に利用できるようにしたものです。1号館は2013年にオープンした佐賀県武雄市のものですが、その後、神奈川県海老名市、宮城県多賀城市山口県周南市和歌山県和歌山市等に広がっています。

「ツタヤ図書館」に関しては、指定管理者としての決定プロセスや施設充実のための費用の不適切な流用などの問題も指摘されていますが、本に出合うための空間としてもっともよく指摘されるのが、ほとんどの図書館で用いられている図書の分類方法(日本十進分類法)とはまったく異なる観点から、図書の配列が行われているという点です。これは、従来の配列に慣れ親しんでいる人にとっては、とても戸惑うもののようです。ただ、書店としてのツタヤを訪れたことがある人ならわかると思いますが、この工夫、予想外の本と出合うきっかけにもなる可能性があるもので、私は一概に否定的にはなれません。いわば「知の冒険旅行」とも言えるエンターテイメント性がそこにあるのです。本というものに慣れ親しむ機会の少ない、とくに若い人に読書の魅力を感じてもらうには、とても良い入口だと思うのです。

もちろん、現段階ではさまざまな問題があぶりだされている状況です。とくに、自治体にとって必要不可欠な公文書の収集・管理がきちんと行われていくかどうかは、長期的には重要な課題になってくるでしょう。

もうひとつの動きとして、自治体自らが主導権を握りながら、従来とは大きく異なる発想で図書館をデザインし、運営していこうというものです。これもいくつか事例があるのですが、ここでは昨年オープンした新しい金沢市にある石川県立図書館に注目しましょう。

金沢大学工学部の跡地を利用して、広大な土地に建てられたこの図書館は、入った瞬間にその斬新なデザインに目を奪われます。天井までの吹き抜けと、階段状に設置された書架や閲覧用の椅子・机、少人数のミーティング用のスペースもあり、自由な使いかたができます。もちろんとてもお洒落です。本を探す方法も色々と用意されているし、カフェも併設されています。何よりも特徴的なのが、落ち着いた雰囲気で読書や調べ物をできる、ゆったりとした空間です。ここになら、特に目的がなくても、半日は十分過ごせそうです。

個人的な印象としては、図書館初心者にやさしく、中級レベルの愛用者も十分満足できるもので、公共図書館としての機能は果たしているのではないか、と思った次第です。

石川県立図書館 下の写真も

 



この他、例えば、大阪には建築家安藤忠雄氏の発案・設計でつくられた児童用の図書と遊び場所に特化した「こども本の森中之島」がオープンして、連日子供たちでにぎわっています。今後も、こうした特徴ある図書館が各地にできれば、日本全体の文化的な民度はかなり上がるのではないでしょうか。

ツタヤ図書館にしても、新しいタイプの公共図書館にしても、ネットやデジタルを排除しているわけではありません。ただ、印刷された本というものは、1000年以上の歴史をもつもので、メディアとしての完成度はきわめて高いというのが現実です。これに、新たなメディアである各種デジタル資料等をどのように組み合わせていくのかが、これからの図書館の大きな課題となるのでしょう。

そういえば、最近図書館って全然縁がないなあ、という方、一度近隣の図書館に出かけてみてはいかがでしょうか。冒頭に書いたように、避暑にもなりますしね。

 

今回も、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。