明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常

元大学教員が綴るこれまでの経過と現在 。なお、入院と本格治療の経験については、00から34あたりまでをお読みください。 。

明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常201 トランスジェンダーとトイレ問題

 

こんにちは。

 

毎年、梅雨末期になると九州地方を中心に大雨による土砂災害等がニュースになりますが、今年は九州だけでなく、全国各地で同様のことが起きていますね。テレビに登場する気象予報士の方たちも「どこで豪雨による災害があってもおかしくない」と言っている状況ですから、もうしばらくは、他人事と思わず、天気予報等に注意しておく必要がありそうです。

そんなわけで、真夏本番までにはあと少しだけ時間がかかりそうですが、京都では、夏の象徴的行事である祇園祭が始まり、先日から山鉾建てが始まりました。16日には前祭の宵山、そして17日は山鉾巡行があり、一気に夏のムードが盛り上がるはずです。今年は、この両日が3連休に重なりますので、相当の人出が予想されます。でも、昨年ここでコロナ・ウイルスに感染してしまった知人もいますので、お出かけになる場合は、色々と対策を講じてください。ただでさえも、京都の夏の暑さは時として尋常ではないものいなりますので。

 

ところで、先日少し気になる裁判所の判決がありました。それは、経済産業省に勤めるトランスジェンダーの職員が、職場の女性用トイレの使用を制限されているのは不当だとして国を訴えた裁判で、最高裁判所は、トイレの使用制限を認めた国の対応が違法だとする判決を言い渡したのです。もともと使用制限を「問題ない」としていた人事院の対応が厳しく問われたわけです。

いわゆるLGBTQをめぐる問題はしばしば話題になりますし、現在の風潮としては、「マイノリティ」であることを理由にこれら性的少数者の権利、利益が損なわれることはあってはならない、という考え方が一般的になってきていると思います。もちろん、こうした考えに同調しない方が少なからずいらっしゃるのは事実ですが・・・ それにしても最高裁でこのような判決が出たことの意味は大変大きいです。他の公共的な施設や企業の対応にも影響を与えるでしょうし、他の人権問題にも判例として少なからぬ重みをもつものになるはずです。

今回の判決が大きな注目を集めるであろうことは、裁判所側も十分意識していたようで、5人の裁判官全員がそれぞれ補足意見を表明するという若干異例な判決になりました。そこで指摘されていたのは、①経済産業省人事院の対応は、配慮を欠いたものである、②他の職員に不安感や不快感が生じる可能性があったというのならば、その意識を改革するための研修等が必要、➂社会の多様化に対応していくには、法的な保護も含めて、より強力な対策が必要、という点に集約されます。一部、当初は混乱を避けるためにやむを得なかったとして経済産業省側の初期対応を擁護する意見もみられますが、その場合も「その後の状況の変化に応じて、検討・見直しの必要があった」とされています。

私は、この判決自体には全面的に賛成ですし、LGBTQだけでなく、あらゆる少数者の権利が守られ、社会もそのことをきちんと受け止め、真の共生社会を作っていくためのプロセスとして積極的に理解し、あるいはその推進にかかわっていくべきだと思っています。

ただ、トイレというきわめて個別性の高い繊細な空間のあり方について考えると、現実的にはなかなか難しい問題があることも事実です。

女性の中には、「男女どちらなのかわからない」人が女性用トイレに入ってくることに大きな不安感を抱く人がかなり多いことは容易に想像できます。これは「考え方が古い」などという言葉で片づけられる問題ではありません。また、これを逆手にとって、心身ともに男性であるにもかかわらず女性用トイレに侵入し、性犯罪を行おうとする人間が出てくる危険性もあります。

これらの問題を解決するにはどうすれば良いのでしょうか。

究極的には、すべてのトイレをいわゆる多目的トイレのようにして、どの個室も男女の区別なく使えるようにする、というのが理想なのかもしれません。私が以前入院していた病院のひとつは、4年ほど前に竣工したばかりの比較的新しい建物で、入院病棟のトイレのほとんどはこのような形式をとっていました。ただ、このようにすると、必然的にトイレの数そのものが減ってしまいますので、利用者の多い建物には不向きということになってしまいます。

今回の判決での裁判の個別意見の中にも、個別の事情に応じて適切な対応をとるべき、というものがありましたが、何が「適切」なのか、当事者が自由に意見を出し合って合意できる方法を探る、というのがとりあえずの解決に向けての方向なのかもしれません。また、そうした話し合いの過程こそが、問題への理解を深めるのに役立つならば、大きな副産物になりますね。

ちなみに、イギリスのイングランド地方では、2022年7月に政府が「新しく建設する公的建造物は男女別のトイレを設けることを義務付ける」ことを発表しています。その際、トランスジェンダー問題に関しては、ジェンダーニュートラル(性的に中立)なトイレが増えることは、女性が不利益を被る等と説明し、「女性が安心できることが重要」「女性のニーズは尊重されるべき」と強調して、女性専用トイレの確保を優先したのです。生理や妊娠中など、女性特有のニーズが大きいことも、この背景にはあったようです。

この問題、思った以上にさまざまな事情が絡んでおり、一筋縄では捉えきれない要素がたくさんあるようです。ただ、それらをひとつずつ考えていくことが、性的少数者のことを理解し、あるいはそもそも人権とは何かということについての共通理解を深めていく契機になるのかもしれませんね。

 

今回も、最後まで読んでくださって、ありがとうございました。