明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常

元大学教員が綴るこれまでの経過と現在 。なお、入院と本格治療の経験については、00から34あたりまでをお読みください。 。

明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常161 サッカー・スタジアムの再利用

こんにちは。

 

年末恒例の「今年の漢字」が発表されました。今年はなんと「戦」だそうです。このイベントは単純に投票数が多かった漢字が選ばれるようなので、この字に投票した方にはまったく罪はないのですが、それにしても、一年を代表する文字あるいは言葉がこんなにストレートに殺伐としたものになってしまうことに、砂を噛むような気分になってしまいます。来年こそは、もっと平和な文字が選ばれるような世相になることを祈るばかりです。

 

さて、今回はカタールで続いている熱い闘いに関する雑感、前回の続きです。ちなみに、「戦」と「闘」の違いってご存じでしょうか。漢和辞典等によると、勝ち負けや優劣を決めるのが「戦」、困難に打ち勝とうとする場合など精神的な事項や目に見えないことに関しては「闘」という字を使うことが多いようです。つまり、サッカーの試合は、その両方を含んでいるのですが、試合そのものの勝ち負けだけが結果ではない、ということを踏まえると、私としては「闘」という字を使って、より幅広くワールドカップというイベントを捉えたいと思うのです。

さて、今回取り上げるのは試合が行われているスタジアムについてです。

ワールドカップは、いよいよ決勝戦間近という段階ですが、ここまでで予定していた試合のすべてを終えたスタジアムのひとつについて、解体作業が始まったそうです。

今回の大会ではカタール国内の8つのスタジアムで行われているのですが、すべて首都であるドーハ近郊にあります。そして、もともと全人口が約280万人しかいない同国において、国際試合を行うことのできる大きなスタジアムをこんなにたくさん維持しておくことに意味はありません。今回のワールドカップ誘致は、比較的盛んなスポーツであるサッカーを通じて、町おこしならぬ「国おこし」するとともに、世界にカタールという国の存在感を見せつけることを目的として誘致されたのですが、それにしても、ワールドカップが終了してしまえば、設備が過剰になることは、当初から予想されていたことなのです。

そういうわけで、ひとつのスタジアムに関しては、はじめから、大会終了後に解体し、それを移動、再利用することが可能なように設計されたのです。具体的には、輸送用コンテナを標準化した部品を使って組み立てられたそうで、建設資材の節約、廃棄物の減量、建設期間の短縮化といった効果が得られたそうです。建設費用は推定3億ユーロですが、それでも従来の恒久的な施設として建設されたものよりは、相当安価になるようです。また、解体してしまうので、大会終了後の施設管理維持は不要です。そして、資材の再利用先としては、将来ワールドカップを開催する国なども想定されているそうです。(具体的な移動先はまだ未定です。)

このスタジアム、もちろん現地を見たわけではありませんが、FIFAの基準を満たしている以上、そんなに貧相な作りのスタジアムではないでしょうし、数試合を開催するだけならば十分なレベルだったのでしょう。

このような方式をとった会場建設は、おそらくオリンピック等、サッカー以外の国際スポーツ大会では非常に珍しい試みだったでしょう。少し調べてみると、かつてオリンピックが華々しく開催された国や都市では、その後施設がまともに利用されず、廃墟と化してしまったところが多数あるようです。さすがに、昨年の東京オリンピックについては、まだ終了からさほど時間が経過していませんので、そんなにひどいことにはなっていないと思いますが、その維持管理に多大な費用がかかり、それが次第に自治体の財政に重くのしかかっていくことは容易に想像できます。当時、「レガシー(遺産)としての活用」という言葉が小池東京都知事やその周囲から何度も繰り返し使われましたが、それらはあくまで、建設された施設を有効活用する、という発想に基づくものにとどまっていたように思います。

しかし、レガシーは施設や建物だけではないのです。人々の記憶に大会での感動や悔しさといったものが残れば、それは十分にレガシーと呼べるものではないでしょうか。ですから、巨額の費用をかけて建物を維持することにこだわらず、カタールのような方法をとることも一案として考えてもよかったのかもしれません。

世界的な大会の規模が大きくなるにつれて、それを開催する国や自治体の負担は非常に重くなっています。今のまま進めていくと、もうしばらくすれば、オリンピックにもワールドカップにも立候補するところが出てこなくなる可能性すら指摘されているのが現状です。そんななかで、スタジアムの早期解体と再利用という方式は、今後大きなイベントを開催するうえで、ひとつのメッセージとして受け止めるべき意味を持っていると思うのです。

ただ、それにしても、まだ大会期間中なのに、「この会場での試合は全部終わった」と言って、さっさと解体工事を始めてしまうあたりは、ちょっと苦笑いしてしまいますね。せめて決勝が終わるまで待てばよいのに、と思うのは私だけでしょうか。

 

解体の始まった974スタジアム(ニュース記事より転載)

 

 

今回も、最後まで読んでくださり、ありがとうございました。