明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常

元大学教員が綴るこれまでの経過と現在 。なお、入院と本格治療の経験については、00から34あたりまでをお読みください。 。

明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常239 どうなる?どうする?河津桜

こんにちは。

 

今週木曜日は、予定通りの通院。そしていつも通りの副作用で、翌日あたりは胃腸の調子があまりよくありません。どうも私はステロイド系の薬に若干弱いらしいです。薬そのものは違うものになってきているものの、ステロイド系の薬はずっと服用し続けています。そして、この副作用の症状にはもう慣れっこになってしまっていますし、悪くても数日で元に戻るので、主治医の先生もあまり気にしていないようです。もうちょっと気にしてくれよ、と思う時もないわけではありませんが、抗がん剤の副作用というのは場合によっては耐えられないような高熱や激しい腹痛、強烈な手足のしびれ、どうしようもない倦怠感等を引き起こすこともあるようで、私の場合はまあ「たいしたことない」部類に入るようです。こればかりは、しょうがないですね。

 

さて、前回はソメイヨシノ河津桜について書きましたが、実は、河津桜の本家本元である静岡県において、今、深刻な問題が持ち上がっているそうです。それは、1997年の河川法改正・施行によって、原則として植物の植え替えができなくなってしまったことです。桜の寿命は長い物でも50年から60年ですから、第二次大戦後に植えられた木の寿命はこれからどんどんやって来るわけで、その植え替えができないとなると、深刻な問題です。寿命がきた老木を切り倒したら、後は何もできないとしたら、「桜の名所」という肩書は返上することにもなりかねません。

なぜこんな法律改正が行われたのでしょうか。

1896年に施行された河川法は、主として河川整備の目的を「治水」と定めていました。これによって、近代河川制度・管理の礎が築かれたのです。その後、1964年に施行された改正法では、目的を「治水・利水の体系的な制度の整備」と定めました。つまり、運輸や灌漑の便を図るために、また洪水のリスクを少しでも減らすために、護岸その他の工事を進めるだけでなく、流れている水の効率的な利用を図ることが視野に入れられたのです。そして1997年の改正法では、これに加えて河川環境の整備・保全が強く求められるようになり、「治水・利水・環境の総合的な河川制度の整備」という文言がその16条に規定されるようになったのです。

ここでとくにクローズアップされたのが「環境」です。

桜に限らず、河川敷に美しい花を咲かせる木々が植えられているのは、全国で見られる光景です。古くは、徳川吉宗がこれを推奨したそうです。ただ、吉宗は同時に、堤や堤防を踏み固めることをも強く推し進めようとしました。木が根を張ると,どうしても地盤が弱くなる。木の生えているのが斜面だったりすると、さらに危険度は増します。すると、その分堤防としての役割が果たせなくなってしまうということに、吉宗は気がついていたのです。

その後、土木工事が進化するにしたがって、人力で土を踏み固めることは少なくなったのでしょう。吉宗の危惧は河川整備の観点から少し忘れ去られるようになってしまったようです。しかし、このようなメカニズムが存在することには江戸時代も現代も変わりありません。とくに、桜並木のように、人々の目を楽しませるために、ある時期に一気に植えられたものについては、老木化し、やがて、根が細り、その分土の間に隙間がたくさんできてしまう、ということが大規模に起きてしまう可能性があります。また、若い苗木が「地面を固める」という役割を果たさないことは言うまでもありません。

そんなわけで、1997年改正法では、河川およびその周辺の環境整備という観点から、堤防の上および川面側の斜面に新たに木を植えることが、事実上禁止されたのです。

もちろん、そのすべてが禁止されたわけではなく、自治体が地元住民の意見を聴取したうえで、許可することは必ずしも妨げられていません。また、最近の時流に乗って、インバウンドの増加を狙った「観光特区」のようなものを国に申請するというのも、ひとつの方法なのかもしれません。しかし今のところ、少なくとも静岡県はそのような方向に舵を取る予定はまったくないようです。「桜は堤防を弱める恐れがあり、新たな植樹は認められない」というのがその見解です。

結局のところ、環境・安全を重視しようとすれば、観光面での魅力はある程度犠牲にせざるを得ないというのが、現在の状況なのです。

河津でこの事態が今後どのように収束していくのかはまだわかりません。地元の方からしても、洪水等のリスクが高まるのは避けたいし、かといって、せっかく観光で訪れる人が多くなったのに、もったいない、という気持ちも強いでしょう。もちろん、斜面の反対側や川面から少し離れた遊歩道・緑地などに植え直すということは可能でしょうが、そうるすと、これまでとは景観が異なってしまうのが悩ましいところのようです。

この問題、おそらく日本中の河川敷で起きているだろうと思います。なんとか解決の糸口をみつけるべく、行政と地元住民が協力してアイデアを出しあっていければ良いのですが・・・

桜の問題に限らず、観光面での魅力増大を推し進めようとすると、どうしても他の何かが犠牲にされてしまうということは往々にしてあります。日本が「観光立国」としての立場をもっと推進していこうとするならば、その「犠牲にされる何か」への配慮とバランスを念頭に置いていかねばならない。そんなことを美しい桜並木は教えてくれているのかもしれません。

ちなみに、京都・淀の河津桜の場合は、整備されたのが2002年以降で、1997年改正法の施行後ですので、そのあたりはうまく対策が取られているようです。前回の投稿の1枚目の写真を見て頂ければ、それはなんとなくわかっていただけるだろうと思います。(念のため、再掲しておきます。)

京都・淀の河津桜(再掲)

 

今回も、最後まで読んでくださり、ありがとうございました。