明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常

元大学教員が綴るこれまでの経過と現在 。なお、入院と本格治療の経験については、00から34あたりまでをお読みください。 。

明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常37 45歳定年制をめぐって

こんにちは。

 

先日、少し気になる記事を見つけましたので、今日はそれについて。

 

サントリー・ホールディングスの新浪剛史社長は、経済同友会の夏季セミナーで、「45歳定年制を導入すべきだ」と提言したそうです。

その主旨は、簡単に言えば終身雇用制の根本的見直しです。日本企業がもっと貪欲になり、企業価値を向上させるためには、60歳(あるいはそれ以上)まで従業員を抱え込むことによって生じている新陳代謝の遅れを解消していく必要がある、というものです。

この提言には、さまざまな意見がSNS上で寄せられ、あまりの反響の大きさに、新浪氏自身、後日記者会見で補足説明をすることになったのです。

私は、この提言について、部分的には賛成です。というより、既に相当数の企業で「早期退職優遇制度」等によって実質的にこれに近い措置が取られているのです。

紋切り型の「終身雇用」という言葉からイメージされるのは、定年まで従業員の雇用保障、生活保障を行う、というものでしょうか。雇用契約上の定年は60歳である企業が現在ほとんどで、さらにこれを延長して「人生100年時代」に備えるべきだという風潮もあります。しかし、人手不足に陥っている中小企業はともかくとして、大企業の場合は、40歳代後半から50歳代にかけて、「セカンド・キャリア」の形成に向けて従業員を促しているところが少なくありません。20歳代、30歳代の若手従業員やこれから就職しようとする学生たちのほとんども、自分がひとつの企業に勤め続けることができると思ってはいないはずです。そのぐらい、現実は進んでいるということです。実利的に考えてみても、どうせいつかは転職するのなら、40歳代の比較的早い時期の方が再就職先を見つけやすい、ということもあるでしょう。この傾向は、今後ますます広がっていくのではないか、と個人的には考えています。(もちろん、企業によって対応はかなり異なってくるでしょう。)

ここでいちばん重要なのは、「自分のキャリ設計は勤務先に頼らず、自分で作っていく時代がやってきている」ということです。

ただし、「45歳定年制」という言葉が使われたのは、やはり少々インパクトが強すぎたようで、新浪氏もその点については「言葉の使いかたにもう少し配慮が必要だったかもしれない」と認めています。

しかし、これを進めるには条件があります。

ひとつは、現在すでに40歳代を迎えている方々への配慮です。これまで企業のために尽力すれば、きっと報われる、と思って働き続けてきた人々にとっては、いきなり梯子をはずされるような制度改革には戸惑うしかありません。ずっと補助輪付きの自転車に乗ってきたのに、ある日突然それを外されて、今日からは2輪で走れ、と言われたようなものです。こうしたことに対する配慮が必要なのは当然でしょう。

もう一点。40歳代半ばというのは、そろそろ体調面での不安感が増してくる年齢です。45歳以上の従業員に人間ドックの検診を勧める企業も少なくありません。例えば女性の場合、がん罹患率は45歳頃から上昇し始めます。(男性は60歳前後からのようです。)健康診断の結果を見ても、「どこにもまったく異常はない」という人の方がむしろ少数派となってくるのではないでしょうか。近年、「健康経営」というキーワードが盛んに使われるようになったのも、このあたりに大きな理由があります。

健康面に不安があると、次の就職先を考えたり、そのために勉強したりするのは大変な負担となります。下手をすると、住宅ローンや子供の教育費の負担がまったく減っていないのに、自分へ投資(健康維持、勉強やスキルアップなど)もしなくてはならず、大変な思いをすることになりかねないのです。最悪のシナリオとしては、中高年フリーターの急増、ということすら考えられないわけではありません。

新浪氏自身は、三菱商事の重役からローソンの社長、そして現職というようにビジネス界でずっと陽の当たる場所を歩んでこられた方なので、個人的にはこんな心配はしたことがないかもしれません。しかし、仕事をしていくうえでの自分の武器として誇れるものをとくに持ち合わせていない多くの人間にとっては、自分でキャリ・プランニングを行い、それを実践していくというのは、実際にはけっこうな困難と負担がともなうと思うのです。もちろん、キャリア・コンサルタント等の助言を得ることはできますが、最終的に自分の決断と自己責任がベースになる事には変わりがありません。

 

これからの日本人の働き方がどのようになっていくのか、正直なところ、私にもよくわからない点がたくさんあります。ただ、少なくとも若い人たちには「今のうちに少しずつ考えておいた方がいいよ」と言いたいです。

 

今日も読んでくださって、ありがとうございました。