明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常

元大学教員が綴るこれまでの経過と現在 。なお、入院と本格治療の経験については、00から34あたりまでをお読みください。 。

明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常166 「日常」の大切さ

こんにちは。

 

正月モードもそろそろ終わり、日常が戻ってきた感のある今日この頃です。

実は、個人的には、無事年を越すことができたなあ、と実感するのはこの時期なのです。正月はどうしても色々と行事があったり、朝からおせち料理を食べたりして、普段とは異なる暮らしをすることになるのですが、それが落ち着き、いつも通りの生活が戻ってきたからこそ、感じることなのかもしれません。

そんななかでふと思い出すのが、今から8年半前、長期入院の間に出会った人々のことです。

私は基本的にはほとんど4人部屋で過ごしていましたので、入院している間には、ずいぶん様々な患者さんが出入りしていきました。そんな中には、印象に残っている方も少なくないのです。

<早く退院しないと・・・友達が待っているんだよね」とニコニコ話しておられた方は、無事日常生活に戻れたのだろうか。あの人、毎朝周りに気を遣いながら、軽く体操していたなあ>

<「退院しても、自宅でも一人なので、ずっとここにいたい。」と言いながら、毎日イヤホンでテレビばかり見ていたあの人はどうしているのだろうか>

<甘いものが好きで、いつもキャラメルを隠れて食べては、看護師さんに「糖尿病なのに・・」と怒られていた人もいたなあ。あの人は本が好きで、よく書店に直接電話で注文していたっけ>

<従業員5人の小さな会社だけど、俺がいないと仕事が回らないんだ」と言っていたミニコミ誌の編集者は、病院中のパンフレットを集めては眺めていたなあ。やっぱり職業柄デザインとか誌面配置とか、気になったんだろうな>

<がんがかなり進行してしまったあの高齢の人は、終末医療専門の病院に転院していったけれど、その後どうしただろうか>

<19歳で大学に入学して間もないのに、脳腫瘍に罹患してしまい、苦しい闘病生活を強いられ、結局ご両親に連れられて、実家のある新潟の病院に転院していった若者は、今はどうしているのだろうか。病院側は、転院のための長時間ドライブもあまり勧めていなかったけど・・・>

 

その他にたくさんの人のことを覚えています。もちろん、年齢も、それまでの経歴も、そして現在の病状もそれぞれ異なる人々です。(そんなに詳しく個人的事情を聞いていたわけではありませんが)ただ、ほとんどの人に共通するのは、「こんなはずじゃなかった」「なぜ自分はこんなところにいるんだろう」という思いだったような気がします。それは私自身も含めてのことです。

たいていの場合、入院というものはある日突然日常生活から切り離されることを意味しています。よく「治療に専念して・・・」という言葉を聞きますが、実際のところ、検査等で多くの時間を取られるのは入院初期だけで、治療方針が固まり、とりあえず容態が安定してくれば、基本的には一日のほとんどが暇を持て余す時間になってしまいます。そんななかで、人はどうしても色々とネガティブなことを考えてしまいます。それと同時に、当たり前の日常生活がいかにありがたいものであったのかを実感することになるのです。

そう、正月のこの時期にこんなことを思い出すのも、「日常」というものと関連があるのかもしれませんね。

 

私たちは、日常生活を何気なく送っています。しかし、本当の幸せはそんなところにこそあるのかもしれません。人生全体の計画をたてたところで、そんなに思い通りの人生を送れる人など、ほとんどいないはずです。むしろ、たびたび起こる偶然の出会いや、岐路に立った時、どちらかを選択しなければならないことに感謝し、その一瞬一瞬に喜びや充実感を見出せるようになりたいものです。きっと、そのほうが、トータルで見た時、悔いのない人生を送れるような気がします。

以前にも少し紹介しましたが、アメリカのキャリア研究者であるクランボルツ氏は「プランド・ハップンスタンス」という理論を提唱しています。カタカナで書くとなんのことだかわかりにくいですが、planned happenstanceつまり「計画された偶発性」ということで、簡単に要約すれば、個人のキャリアの8割は予想できない偶然の出来事によって形成されているのだが、それをキャリアップにつなげられるかどうかはそれぞれの努力次第であり、また日頃からの準備・心がけ次第である、というものです。少し似た言葉として、日本では昔から歌舞伎役者の世界には「銭は舞台に落ちている」、野球選手の世界では「銭はグラウンドに落ちている」というのがあります。これは別にキャリアや職業にだけ関連することではありません。結局、毎日を丁寧に生きていくことこそが、人生を充実させることになるのだ、ということでしょうね。

今回は、年の初めらしく、少し「これからの生き方」について考えてみました。

 

今回も最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

滋賀県大津市・三尾神社にて

同上