明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常

元大学教員が綴るこれまでの経過と現在 。なお、入院と本格治療の経験については、00から34あたりまでをお読みください。 。

明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常194 歌い続ける友の姿

こんにちは。

 

新型コロナ・ウイルスによる感染症の法的位置づけが5類に移行してから少し時間が経過しました。これまでのように、毎日新規感染者数の実数が発表されなくなりましたので、最近の経過がいまひとつよくわからないのですが、一週間おきに発表されている「定点把握」のデータによると、一医療機関あたりの患者数は相対的に落ち着いているようですね。ただ、以前と比べて明らかに街の人出は増えていますので、まだ安心してよい状況ではないような気がします。そんなわけですので、私はとりあえず、6回目のワクチン接種を来週受ける予定です。

 

ただ、さまざまなイベントが行われ、街、というか社会全体に活気が戻ってきていることはなんだかホッとさせられます。このまま「ウィズ・コロナ」が穏やかな形で定着してくれればいいですね。

そんななかで、先日、学生時代からの友人T君が出演するコーラスのコンサートに出かけてきました。コンサートと言っても、メンバー5人によるサロン・コンサートのようなもので、曲の合間に軽妙なMCが入るなど、終始リラックスした雰囲気でした。また、歌われた曲も、本格的な合唱曲は1曲だけ、あとは「アメイジング・グレース」、「世界に一つだけの花」(SMAP)、時代(中島みゆき)、アニメの主題歌(にっぽん昔ばなし、巨人の星宇宙戦艦ヤマト)など、誰でも耳なじみのある曲ばかりで、とても気軽に楽しめました。

T君(テノール)は高校時代から合唱を始めて、今日に至るまでずっと何らかの形で合唱、コーラスを続けています。このグループでも大きな役割を果たしているようで、途中何故だか彼のソロ(と奧さんのピアノ伴奏)による歌が1曲だけあったのですが、そこでT君が選んだのがMISIAの「アイノカタチ」。

 

あのね 大好きだよ

あなたが心の中で 広がってくたび

愛が 溢れ 涙こぼれるんだ

 

この曲は、私も大好きな曲のひとつですが、普通に考えると、還暦を過ぎたオヤジが歌う歌ではありません。しかし、彼の表情はとても堂々としていて、しかも、にこやかで、曲に込めた気持ちがしっかりと伝わってくるものでした。彼の伸びやかなテノールで歌われることによって、この曲の良さを再認識させられた次第です。

それとともに思い起こしたのが「継続は力なり」という言葉です。

あまりにも有名なこの言葉はもともと住岡夜晃(1895-1944)という浄土真宗の宗教家による詩の一節が引用されたものです。そして、この詩には以下のような言葉も綴られています。

「青年よ強くなれ

牛のごとく、象のごとく、つよくなれ」

「真に強いとは、一道を生きぬくことである」

「真の強さは正しい念願を貫くにある」(以上、一部抜粋)

 

これらの言葉から理解できるように、住岡師は、物事を継続していくことによって人はより強い存在になれる、ということを強調しています。そしてその前提として、継続することには相当の困難が伴うという認識があったものと思われます。それを乗り越えることの価値こそ、師のもっとも言いたかったことではないでしょうか。

しかし、T君の歌う姿を見ていると、そこに困難を乗り越えてきた、とか苦難を乗り越えようとしている、というような姿勢はまったく感じられないのです。もっと単純に、「好きだから続けてきた」という思いが、彼の歌を素晴らしいものにしているのではないか、と私には感じられたのです。

彼が合唱を始めてから45年以上。その間には、プライベートでさまざまなことがあったはずです。仕事のうえでの壁のようなものにも、何度もぶつかったでしょう。それでも歌を辞めないで続けてきたのは、「それが好きだから」ということに尽きるのです。そしてまた、おそらく彼は今でも、何かを成し遂げたとは思っていないだろうと思います。つまり、住岡師の強い思いを軽々と乗り越えることで、彼なりの「強さ」を手に入れているのではないだろうか。そんなふうに想像してしまいました。(これは、師の言葉を否定するものではありません。)

もちろん、私自身が大きな刺激を受けたことは言うまでもありません。健康を害してしまってからは歌うことを止めてしまった私ですが、何とか復帰できないものか、あるいは何かほかに継続してやっていくことのできるものがないか、色々と模索していこうかな、とも思っています。

とにかくは、旧友の元気な様子を見ることができたのは、とてもうれしいものです。本当に幸福な瞬間でした。

 

今回も、最後まで読んでくださり、ありがとうございました。