明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常

元大学教員が綴るこれまでの経過と現在 。なお、入院と本格治療の経験については、00から34あたりまでをお読みください。 。

明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常207 新しい治療の開始と短期入院

こんにちは。

 

前回も少し書きましたが、8月16日から20日まで、短期入院してきました。

具体的には以下のようなスケジュールでした。

8.16       入院 各種検査。担当医からのインフォームド・コンセント

8.17       治療開始(約4時間半にわたる点滴など)

8.18       採血による血液検査。治療の後の様子見

8.19       土曜日のため、とくに何もなし。引き続き様子見

8.20       大きな問題は見つからなかったため、午前10時頃退院

 

今回新しく始めた治療は、「サークリサ+ポマリドミド+テキサメタゾン併用療法」と呼ばれるものです。要するに、三種類の薬品を同時に使うのですが、ポマリドミドはサリドマイド系で、国から管理を厳しく義務付けられている内服薬、そしてそれ以外は点滴によるものです。テキサメタゾンはステロイド系の薬です。そしてサークリサは、これまで使ってきたダラキューロと同じような働きをする薬で、特定の分子(タンパク質)と結びついて異物を取り除く「抗体」の性質を利用した「抗体医薬品」と呼ばれるものです。これは、攻撃する細胞の目印が決まっているため、がん細胞を効率的に取り除くことができる、というものだそうです。


いずれの薬も、名前を聞いたことがある方はほとんどいらっしゃらないと思います。私自身、最初はまったく覚えられず、今も、もらった小冊子を確認しながら書いている次第です。

多発性骨髄腫の治療薬は、ここ10年ほどの間に飛躍的に種類が増えてきました。それだけ選択肢が増えたということで、患者にとってはありがたい話です。また、製薬会社にとっても、世界中で次第に患者数が増えつつあるこの病気への対応に力を入れているようです。新型コロナのワクチンで有名になったモデルナ社は、実は、このワクチンよりも、多発性骨髄腫の治療薬であるレブラミドの方が大きな売り上げを計上しているということですから、推して知るべしですよね。

ただ、いずれの薬も単体では効果が限定的で、いくつかを併用することによって効果をより高める工夫が製薬会社と医療現場の間でさまざまに行われているのです。私の新しい治療もその一環なのです。ただ、使う薬の種類が増えると、それだけ副作用が出てしまうリスクも高くなります。そのため、初回(第一クール)は、患者を入院させて、数日間様子を見ることが強く推奨されているのです。大したことがなければ、この数日間はとてつもなくヒマなものになりますが、やむを得ません。とくに、ステロイド系の薬は、一般に副作用が出やすいようで、使用中止する場合もあるようです。

私の場合、さほど重篤な副作用は出ませんでした。軽い発疹の前触れのように、体の一部が赤くなったことと、一日中しゃっくりがとまらない日があったことぐらいです。発熱や下痢、しびれ、強い吐き気などが多数報告されているようですから、それに比べれば些細なものだったと言えます。ただ、白血球や赤血球、そして血小板の減少はほぼ確実に起こるようで、そのために免疫力が低下し、結果として肺炎などの感染症に罹患してしまう恐れが十分にあるのです。私の場合は白血球の数はまだ標準値の範囲内ですが、今後治療を重ねていく中で、どこまで減少してしまうのか、不安感は残ります。

なお、24日に第2回の治療を通院にて行いましたが、これまでは無事に過ごしています。あと2回、つまり最初1ヶ月は毎週治療の必要があるのですが、その後は隔週になる予定なので、少し負担感は減るかもしれませんね。

と、新しい治療について書いてきましたが、正直なところ、ここまでの文章に深い興味を抱いていただける方はそんなにいらっしゃらないだろうと思います。がんに限らないのですが、病気の話というのは、同じ病気に罹患した人でないとピンとこないものですから、まあ、やむを得ません。

そこで、ここからは入院中に感じたこと、体験したことを少しだけ書いておきます。

今回は4人部屋に入ったため、同室の方たちの様子は何となく知ることができました。いずれも私より高齢の方だったのですが、とくに、もっとも高齢(おそらく85歳前後)の方は、既にあまり治療の手立てが見つからなくなっているらしくて、かなり弱気になっておられました。そして、病院内にある緩和ケア病棟に見学に行かれたのです。

緩和ケア病棟とは、病気を治すための積極的な治療はあきらめ、もっぱら痛みや苦しみを和らげる治療に専念し、できるだけ心穏やかに最後の日を迎える手伝いをするという病棟です。また、その際には家族も一緒になってそのことに立ち会っていくことが求められるため、一般の病棟よりも、面会や差し入れなどの規制は大幅に緩和されています。

普通、このような病棟に患者を入れるかどうかは、医師と家族の相談のうえ、本人の同意を得て決定する、ということになるのですが、上に書いた方の場合、それを自分自身で決めようとしているのです。これはけっこう辛い選択です。いわば、自分で最後の日までのカウントダウンを自分で開始するようなものですから、決定にはそれなりの勇気がいるはずです。実際、この方もまだ心は揺れ動いていて、調子の良さそうに日は元気に話をされていました。それでも「まだ戦う気持ちはあるんだけどね、これ以上はこの体が可哀相だ・・・」という言葉には胸を締め付けられたものです。

話が暗くなりましたので、少し明るめの話題、ということで病院食について。

下の3枚の写真は、ある日私に届いた朝食、昼食、夕食です。現在、患者の食費負担は一食460円と定められているので、その予算内で収めようとしているのですが、皆さん、この写真を見てどう思いますか?


今時、コンビニ弁当でももう少しマシなメニューを提供できるんじゃないか、と思うのは私だけではないはずです。もちろん、栄養バランスやカロリー計算を重視しなければならないため、安直なメニュー提供ができないことは承知の上ですが、それでも「もうちょっとなんとかできないのかなあ」と毎度毎度思いながら、それでも全部完食していました。私は味覚のストライク・ゾーンがわりと広いようで、よほどのことがない限り食べ物が口に合わない、ということはないのですが、きっと食欲がわかずに食べ残してしまう、という方も結構いらっしゃるだろうと思います。昔の病院食から見れば、これでも随分良くなった、という話はしばしば聞きますが、管理栄養士さんや病院スタッフの方々には、なおいっそう努力して頂きたいものです。なお、先進的な病院の中には、「食べることは治療の一環である」と明確に位置付け、栄養士をリハビリ部門に配置して、これに積極的に取り組んでいる所もあるそうですが、そんな病院に入院している方はうらやましいですね。

まあ、そんな感じでブツブツ文句を云いながら食事をとり、あとは本を読み、スマホで音楽を聴いている間に5日間は過ぎていきました。日曜日の退院はとてもホッとして嬉しいものだったのですが、病院を出た瞬間に「今は真夏だ」という現実世界に引き戻され、げんなりしてしまいました。暑さに負けて、何だか軽い熱中症にでもかかったような気分の悪さでした。

完ぺきな空調が行われている病院というのは、本当にありがたいということを痛感させられた次第です。かといって、ずっとあそこに入っているのも嫌なことは、言うまでもありませんが。

 

今回も、最後まで読んでくださりありがとうございました。