明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常

元大学教員が綴るこれまでの経過と現在 。なお、入院と本格治療の経験については、00から34あたりまでをお読みください。 。

明日を生きる多発性骨髄腫患者の日常216 オーバー・ツーリズムにどう対処するのか

こんにちは。

 

今年は季節の進むのが早いようで、どんどん紅葉が進みつつあります。緑もまだ残っているこの季節が私は一番好きです。もっと北国の方に行くと既に山頂は雪をかぶっていますので、山麓付近は緑、中腹は赤、そして山頂付近は白というように見事なコントラストを見せてくれますね。

しかし観光地はそんな呑気なことを言っていられません。コロナ禍の旅行制限がなくなった今年、秋の観光シーズンは昨年度までよりもかなり盛り上がっているようで、いわゆるオーバー・ツーリズムの問題が深刻化しているからです。

この言葉自体は2000年代に入ってから、アメリカで広まったものですが、日本ではそれ以前から「観光公害」という名称で、しばしば大きな問題として取り上げられてきました。JTB総合研究所によると、それは「観光客や観光客を受け入れるための開発が、地域や住民にもたらす弊害を公害にたとえた表現」と定義されています。要するに観光客が押し寄せることによって、それまでの地域住民の生活環境が大きく変わってしまうことによるさまざまな問題を総称して、このように呼んでいるのですね。

具体的には道路や公共交通機関の混雑の常態化、ポイ捨てによるごみの増加などが目に見える形での弊害としてしばしば指摘されていますが、それだけではありません。

私が最も懸念するのは、こうした地域に立地する商店がどんどん「観光客向け」の売り方をするようになり、地元民にとってはとても利用しにくいものになってしまっていることです。

京都や鎌倉、さらには奈良など、コロナ禍の時期には観光客が激減した地域では、それを機会に、もっと地元に目を向けた「地に足を付けた商売」を目指していこうとする動きが見られました。しかし、いざ観光客の足が元に戻ってくると、結局元の木阿弥。それを優先したやり方になってしまっているように思えるのです。

もちろんせっかく訪れてくれた観光客をしっかりともてなすことはとても大事なことです。外国人向けに英語や中国語によるメニューを用意することも、良い取り組みだと思います。もっとはっきり言ってしまえば、観光客向けを自負する店が存在することも、その地域が観光によって経済的に成り立っていることを考えれば、当然のことと言えるのかもしれません。しかしそこに地元民が入り込む余地がどんどん狭くなってしまうならば、少し話は違ってくるように思うのです。また、いかにも観光客だけを相手にしているような店が立ち並ぶ場所は、結局のところ観光客から見ても魅力を感じないものになってしまい、もう一度訪れようとは思わないところになってしまうことが心配されるのです。

こうした現状に対して、観光地側が無策であるわけはありません。

例えば京都では民泊への厳しい制限を行ったり、「オーバー・ツーリズム対策に関するプロジェクトチーム」を立ち上げ、地域滞在者の位置情報を活用したAIによる混雑予測情報を観光客に発信し、観光地への旅行者の分散化を促進する取組が行われたりしています。

居住者の3000倍もの観光客一年に押し寄せるようになった岐阜県白川郷はもっと深刻な観光公害に直面していると言えるかもしれません。

当地では以前からマイカーの乗り入れ制限等を実施していましたが、最近ではレスポンスレスポンス・ツーリズム」という考え方を推し進めようとしています。これは日本語に翻訳すれば「責任ある観光」という意味になります。要するに観光客が主体性や責任をもって行動する旅行のことです。例えば、観光客が地域やその環境に負担をかけないよう配慮し、なるべくゴミを出さないように、マイボトル等を持参することが挙げられます。さらに、地元側として、来てもらいたい観光客はどのような行動をとる人々なのか、情報発信をし始めているのです。また、訪れた人にミッション・ラリーに参加してもらうことも行われています。これは主催者側が出題するミッションをRPG(ロール・プレイイング・ゲーム)感覚でクリアしてもらうもので合掌造りの建物のみに注目されがちな白川郷のもっと多面的な魅力を楽しみながら理解してもらおうとする試みです。

ここで重要なのは、地元側も、急激に増えた観光客を「平穏な生活を乱す厄介者」あるいは「単なるカネを落としてくれる人々」というように見なさず、自らその地域の魅力を積極的に情報発信し観光客側の理解を深めてもらうように努力し、そのことによって持続的な観光立地としての立場を確立していくことなのです。こうした方向性はしばしば「サステイナブル・ツーリズム」と呼ばれるようです。

日本には古くから「旅の恥は掻き捨て」という言葉があります。しかしこれからの旅行においてそんな刹那主義的な、そして地域の状況を考慮しないような行動は許されるべきではないでしょう。私達もまた旅行先についてしっかりと考え、責任ある行動をとるように、気を付けなくてはいけないだろうと思うのです。

「そうは言っても、人気スポットへの人の集中はどうしようもないのではないか?」と言う方もいるでしょう。しかし、いわゆる人気観光地にも、さほど人が訪れないような「隠れスポット」はたくさんあります。例えば京都でなら、超人気スポットである清水寺やその周辺をまわって、それで満足してしまうのではなく、そこから少し足を延ばして、古いものと新しい物が混在する「街歩き」をしてみるのはいかがでしょうか。実は、京都には大正時代や昭和初期に建てられた魅力的な洋館が点在しており、それらを見て回るだけでも興味深い発見があるかもしれません。それから、いわゆる大寺院の付近に建っている塔頭(たっちゅう)の中には、公開しているものの、訪れる人が少なく、ゆっくりと庭園等を鑑賞することのできるところもたくさんありますよ。

 

今回も、最後まで読んでくださり、ありがとうございました。